第3話 「凱旋と断罪」

 魔王を討伐した我々勇者一行は、テレポートでクラヴェールの城下町まで

移動した。


「さて、町や城のみんなに報告しよう」


 イグノールが皆に言った。皆、笑顔で頷く。


 城塞都市クラヴェールの門をくぐり、我々は七日ぶりの凱旋に心を震わせる。


「皆の者、魔王を討ち倒し、帰ってきたぞ!」


 イグノールが声高々に叫ぶ。


「ありがとうございます!」


「おかえりなさい、勇者よ!」


 城下町の民衆達が我々を讃え、温かく迎えてくれる。


 町中が歓喜に包まれ、それはとても幸せな瞬間であった。


 城へ続く大通りを歩いていた時、我々に歩み出てきた者達がいる。


「お帰り、よく無事に帰ってきてくれたな」


「お帰りなさい、皆さん。よくぞご無事で何よりです」


 そう言って迎えてくれたのは、冒険者で戦士グレッグと、聖女エレノーラだ。


 グレッグは冒険者ギルドで知り合った初めての仲間で、

この世界に来て色々世話になった親友。

 エレノーラ様は私を異世界召喚した聖女で、この国の象徴ともいえる存在。

そして私を親身に世話してくれた大恩人であり、私は師匠と呼んでいる。


「ありがとう。グレッグ、エレノーラ師匠。募る話もあるが、まずは国王に謁見し、報告しなければならない」


「わかってるよ。終わったら、ゆっくり話を聞かせてくれよ」


「ああ」


「楽しみに待っていますよ」


「またお会いしましょう」


 私は彼らに別れを告げ、城で待つ国王のもとへ向かう。


 ◆◆◆◆


 我々は城門前まで到着する。

イグノールが城門の兵士に魔王討伐の報告をし、国王へ謁見に来たと話す。


「かしこまりました。勇者様が戻られたこと、報告いたします。

長旅ご苦労様でした。従者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」


 しばらく待っていると、従者が現れ、兵士は我々を通してくれる。


「道中お疲れ様でございました。私がご案内いたします。ついてきてください」


 我々は従者に先導してもらい、広い城内をゆっくり歩いた。


 長い廊下を歩き、何度もたくさんある部屋を横に通過する。


 三分ほどして、とある部屋の扉の前で従者が止まる。


「こちらの部屋でしばらくお待ちください。国王様の準備ができ次第、

お声かけさせていただきます」


 我々は待合室のような少し広めの部屋に通され、そこで待つことになる。


 我々が住むような部屋とは違い、ゆったりと広く、家具や調度品も高価で、

清掃も行き届いている。


 我々は少し話をしていたが、五分程して、鎧姿の男が入室する。


「レガリック将軍、ご無沙汰しております」


「勇者イグノール殿、魔王討伐感謝します。準備が整ったので、、案内させて頂く」


「よろしくお願いします」


 レガリック将軍はこの国の軍を率いる大将軍である。我々は将軍に先導され、

国王の謁見の間まで誘導してもらう。


 やがて謁見の間の前に到着すると、将軍は我々の方を向いた。


「ここが謁見の間です。国王陛下や重臣達の前で、くれぐれも粗相のないように」


 将軍はそう言うと、扉を開け、国王に謁見すべく我々を先導する。


 先ほどの部屋とは段違いの、荘厳な大広間である。


 国王の護衛隊や重臣達が揃い、少し重い空気が流れている感じがした。


 我々は後に続き、部屋の中央へと歩みを進める。


 将軍が跪いて一礼し、国王へ報告する。


「国王陛下、魔王を討伐した勇者達を連れて参りました」


「うむ、ご苦労であった」


「はっ!失礼いたします」


 そう言うと、立ち上がって一礼し、我々の少し後ろに控える。


「さて、皆の者、面を上げてよいぞ」


 クラヴェール五世が優しい声で言った。我々は頭を上げ、国王の顔を見る。


「この度は、魔王討伐大儀であった。改めて礼を申す」


「陛下にそのように仰っていただき、身に余る光栄です」


 イグノールが発言し、深々とお辞儀をする。


「我々一行は、七日間に及ぶ魔王軍および魔王クライスラインとの戦闘に勝利し、

ただいま帰還いたしました。こちらが魔王の角でございます」


 イグノールはインベントリから打ち取った魔王の角を取り出し、将軍に渡す。

将軍から国王の前へ献上される。


「うむ。見事である」


 国王は角を眺めてから、我々に言った。


「長旅ご苦労であった。二日ほど休んでいくとよい」


「恐れながら、それはどういうことでしょうか?」


 イグノールが返す。


「うむ、そなた達のこれからの処置であるが、三日後、国外からの退去を命じる」


「えっ!!!」


 我々は身じろいだ。国外退去。褒賞ではなく刑罰の類になる処遇。


 事前に予想はしていたが、そうならないよう願っていた身としては、

ここまではっきり言われると、やはり驚きを隠せなかった。


「それは一体どういうことですか?」


 今度はクローディアが尋ねる。


「そなた達が討伐を成功させた時にどうするか、

国の重鎮や有力貴族達を集めて会議していたのだ。

その結果、今後、力のあるそなた達が先導し、

民衆を巻き込んで反乱を起こしかねないという意見が多数出た。

誠に申し訳ない事だが、これは決定事項だ」


「そんな理由で!酷すぎます!」


「そなた達の有している職も解く。今後一切の王国領内への立ち入りを禁ずる。

異論は認めない。三日後には必ず退去するように」


「陛下!どうかお考え直しを!」


「やめろ、クローディア!」


 イグノールが諫める。


「わかりました。陛下のお言葉に従います。今まで大変お世話になりました」


 イグノールが落ち着いた口調で話す。


「わかってもらえて何よりだ」


 少しの沈黙が流れ、謁見の間の空気が一層重く感じる。


 我々は立ち上がり、国王に一礼して謁見の間から退去する。


 従者に先導され、城を出るまで我々は無言を貫く。


 不満は皆同じだったが、誰が聞いているかわからない為の予防線である。


 我々は案内してくれた従者や兵士達にそれぞれお礼の挨拶をし、城を後にする。


 城を出てからの皆の表情は重かった。無理もない。

ここまでの処遇になるとは正直私も思っていなかった。


 私は皆を連れてテレポートで勇者イグノールの家の前に飛んだ。


「ありがとう、タクト」


「いえ、こちらこそ気の利いたことを言えず、すみません」


「いいよ。話は家に入ってからしよう」


イグノールはそう言うと、我々を家に迎えてくれた。



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