第2話 「疑惑」

「実は…… 私は国王陛下の事を信用できていないんだ」


「どういう事だ、タクト」


 バルドスが私にたずねる。


「魔王討伐は俺達の使命だ。殺さなければ意味がない!! お前のやっている事は人間として許せない」


 イグノールが私を断じる。至極しごく真っ当だ。その為の討伐だ。


「魔王は私達人間にあだなす邪悪なる存在。生かしておくことは危険だ」


 クローディアもイグノールに同調する。


「何かたくらみがあるのですか。私も納得できかねます」


 メリエラも皆と同意見である。


 私は少し間をおいて、皆が落ち着くのを待ってから、ゆっくり話し始めることにした。


「私は聖女エレノーラ様に召喚され、この世界にやってきた。それからこの世界の事、なぜ私が召喚されたのか、エレノーラ様から話を聞いた。どういった社会構造とか、この世界の人々がどのような生活をしているのかなどから、私がこの世界でなすべきことまで、エレノーラ様から教えて頂いた」


「ふむ」


 イグノールがうなずく。


「私はその後、国王陛下に謁見えっけんした。陛下は温厚な方で、時折笑ときおりえみを見せながら私に話してくださった。王国と他国との関係、魔界とこの国との関係など、陛下は私に説明してくださった」


 私は一旦話を止め、一人一人とアイコンタクトした。


「だけど、どうしても納得できないことがあった。なぜ魔界へ侵攻し、魔王を討伐する必要があるのか。王国と魔界の関係はさほど悪い状態ではなかった。魔界から人間を襲い、激しく交戦しているならともかく、なぜ陛下はそれほど魔王討伐にこだわるのか、そこがどうしてもひっかかっていた」


「言われてみればそうだな」


 クローディアが拳をあごに当てて同意してくれた。


「もちろん、イグノールは勇者として生を受けたのだから、魔王討伐は使命とも言える。けど、陛下が魔王に固執こしつされるのかがどうしても気になったんだ」


「何か裏があると?」


 メリエラが珍しく発言してくる。


「その通りだ。ただ、それが何なのかは当時ここに来たばかりの私はわからなかった。そこで、その時は陛下の勅命を受け入れながら、エレノーラ様に陛下の意図を調査して頂いた」


「それで何かわかったのか」


 イグノールがたずねる。


「ああ。どうやら国王は度重なる課税のせいで民衆からの支持が悪く、また、反国王派の勢力からも行政の内容で不満をつのらせていたようだ。そこで……」


「実績を作るために魔王討伐を考え付いたと……」


 バルドスが私の目を見て言った。


「ああ。自分で考えたのか、側近の入れ知恵かどうかはわからないが、その線で間違いないと思う」


「なるほどな」


「で、ここからは予想だが、おそらく私達は国から隔離かくり、もしくは追放される」


「何!?」


 皆が一様に驚く。まあ、無理もない反応だ。


「まあ、聞いてほしい。討伐に成功した私達はもう用済みのはず。そして、強大な力を持つ私達を恐れているだろう。私達が国を去ったという事で、国王は手柄を自分のものにし、民衆や反対派を抑える事と思う」


「ただの小心者という事か!! ふざけるな!!」


 クローディアが激高げきこうする。彼女らしい反応に安心する。


「その保険として、私は魔王を殺さず封じたんだ」


「確かに国王が悪いのはわかった。だがそれが魔王を殺さない理由にはならないぞ。魔族は人間に害をなす存在。国王から勅命ちょくめいを受けなくても、いずれ誰かがやらねばならない事だからな」


 イグノールが反論する。真っ当な意見だ。


「確かにその通りだと思う。魔族が危害を加えてきた時は立ち向かわないといけない。それでも、人間のちっぽけなプライドの為に、私は魔王を殺すのはどうしてもできなかった。それに……」


「それに? 何?」


「最初に魔王の間に入って見た魔王の目、私にはとても美しく見えた。私はもう一度、あのかたと話がしてみたい」


「まさかお前、魔王に魅入みいられたのか?」


 バルドスが好奇心ありげに言い寄ってくる。


「それは……そうかもしれない」


 私は少しうつむき加減で、皆に申し訳なさげに返す。


「難しい問題だな」


「確かに。でも、重要なのは本当に国王がそのような事をしてくるでしょうか」


 メリエラが擁護ようごするように言ってくれた。


「もし本当にしてきたらどうしたらいいんだ」


 イグノールがたずねる。


「まず国王の前で事を荒立てるような行為をしないことだな。それこそ向こうの思うつぼだから」


「それはそうだな」


 バルドスがうなずいて言った。


「とりあえずはその場での国王の言葉をそのまま聞いて、あとはみんなで考えるということでどうだろうか」


 イグノールが皆にたずねる。


「私はそれでいいよ」


 私はイグノールに賛同した。


「ちょっとむかつくが、仕方ないな」


 クローディアが少し顔をしかめて言った。


「俺もそれでいい」


「私も賛同します」


 バルドスとメリエラも同調する。


「魔王を生かしたことは保留にしよう。まずは帰還して国のみんなに報告しよう」


 イグノールがその場をまとめてくれた。


「ありがとう、みんな」


 私はパーティーの皆に感謝した。このメンバーで一緒に戦えた事を、心から幸せに思えた。

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