霊感が強すぎてアンドロメダ星雲のとある惑星の知的生命体の霊に取り憑かれた私

向出博

第1話

第1話 プロローグ


物理学者によると、私たちが生きているこの宇宙以外にも「10の500乗もの数の多次元宇宙」が存在しているということだ。

しかし、残念ながら、その存在を実証する手立てがない。


霊感が強い私は、身をもって多次元宇宙の存在を実証したのだ。

これから話す物語は、そんな私の奇妙な体験である。

私は、この奇妙な体験を手がかりに構築した壮大な理論体系を「霊体物理学」と名付けた。


昔から、私は霊感が強かった。

若い頃は、この地球の「人間の霊」によく取り憑かれた。

やがて霊感が研ぎ澄まされていくにつれて、「地球外の知的生命体の霊」に取り憑かれるようになった。


アンドロメダ星雲のとある惑星の知的生命体の霊に取り憑かれたのが、まさに、最初の「異世界」とのコンタクトだった。


おかしな話だが、最先端の科学を駆使しても、いまだに地球外生命体とコンタクトできないのに、私はすでに、霊感によって、地球外生命体とのコンタクトに成功してしまったのだ。


この話だけでも、相当なボリュームの物語になるが、それは次の機会に譲ろう。


私は、地球外生命体ばかりでなく、この宇宙ではない、「別の宇宙」の知的生命体の霊にも取り憑かれるようになった。

恐るべき体験だったが、冷静に観察したところ、そうした宇宙は、ほぼ無限にあるということがわかってきた。

私はこれまでに、10の500乗もあると言われる「多次元宇宙」の様々な霊に取り憑かれてきたからだ。


これはこれで霊体物理学的には素晴らしい体験なのだか、私の「私としての意識」が悲鳴を上げはじた。

異世界とのコンタクトへの欲求は抑えきれないが、最早耐えられなくなり意識が崩壊してしまうのではないかという恐に囚われるようになった。


そこで意識が崩壊してしまう前に、私の体験によって実証した事実を、皆さんに知って欲しくて、この物語を書き残すことにしたのだが。


第2話


「誰だ、時間が無い。」


その声は、私の頭の中に直接響いてきた。

低く、震えるような音色だが、言葉には確固たる意思が宿っていた。


私は目を閉じたまま、心の中で答える。

「誰が話しているんだ。あなたは何者だ。」


すると、今度はまるで嵐の中に放り込まれたかのような感覚に襲われた。

私の意識は引きずられるように体から引き離され、どこか遠くへ飛ばされていった。


「これは凄い。いままでに私が体験したなかでも、最高の心霊現象だ。」なんて喜んでいるうちに私の体は無感覚になった。


恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

重力の概念が崩壊したような世界。

上も下もなく、空間そのものが不規則にねじ曲がっている。

そこに浮遊する無数の光の粒子。

ひとつひとつが異なる色や明るさを放ち、私に何かを訴えかけてくるようだった。


「ここはどこだ。」私は問いかけた。


そのとき、目の前の空間が揺らぎ、光の粒子が集まって一つの形を作り出した。


それは、私が以前取り憑かれたアンドロメダ星雲の知的生命体の霊体と似ていたが、どこか異なっていた。

彼らの特有のシンボルのような模様が、複雑に進化したような形状だったからだ。

強いて言えば、コンピュータの回路図の中に、エジプトの象形文字「ヒエログリフ」をデフォルメして散りばめたような形状だった。


「時間が無い。」

同じ声が再び響いた。

だが今度は、光の粒子が発したものだと分かった。


「時間が無いってどういう意味だ。」私は詰め寄るように問いかけた。


すると、光の粒子は次々と形を変えながら、私の頭の中に膨大な情報を流し込んできた。

画像、数式、記号、音――それらが一瞬のうちに私の意識を埋め尽くし、まるで宇宙の秘密そのものを見せられているようだった。


こんなときでも人類の脳の容量は凄いと客観的に感動できる私の科学者魂は実に素晴らしいと、ついうっとりしてしまった。


私の意識というキャンバスに描かれていたのは、私たちの宇宙とは異なる構造を持つ「別の宇宙」の崩壊のビジョンだった。


複数の次元がぶつかり合い、エネルギーが暴走し、やがて宇宙全体が無へと帰していく壮大なパノラマ。

今まさに宇宙崩壊の波動が、私たちの宇宙にも影響を及ぼし始めているというビジョンだった。


「救え。」

光の粒子が私に命じた。


「どうやって」私は叫んだ。

だが、その瞬間、光の粒子は突然消え去り、再び現実の世界へと引き戻された。


私は部屋の中に戻っていた。

時計を見ると、わずか数秒しか経っていなかったが、私の心は荒れ狂う波に打ちのめされたような感覚だった。


「救えって、一体どうしろというんだ……。」


それでも、一つだけ分かっていることがあった。

彼らが私を選んだのは偶然ではないことがアプリオリにわかった。

私が「霊感の強い人間」であること、そして「霊体物理学」を築き上げたこと――それが理由だったのだ。


しかし、この宇宙を超えた危機に、どう立ち向かうことができるのか。

私にできることはあるのだろうか。


第3話 崩壊する多次元宇宙の謎


あの「光の粒子」が見せたビジョンが頭から離れない。


多次元宇宙のひとつが崩壊し、その波動が私たちの宇宙にまで届いているという事実。

だが、どうすればそれを防げるのか、彼らは具体的な方法を何も教えてくれなかった。

ただ「救え」とだけ命じてきたのだ。


私は焦りと苛立ちを覚えながらも、冷静になろうと深呼吸を繰り返した。


これまでの経験から、こうした霊体との接触の後には、必ず何らかの痕跡が残されている。

先ずは、それを探さなければならない。


私は机に向かい、ノートパソコンを開いた。

そして、自分の脳波や、霊体との接触中の周囲のエネルギー変化を記録するために常時稼働させているモニタリングシステムを確認した。

すると、データにはこれまでに見たことのない異常な数値が記録されていた。


「これは……共鳴波動。」


画面には、私が霊体物理学で名付けた「次元共鳴波動」のデータが表示されていた。


通常、この波動は霊的存在が私と同調する際に観測されるもので、地球の霊や宇宙生命体の霊に取り憑かれたときには必ず記録される。

だが、今回は桁違いに複雑で、振幅も異常に大きかった。


さらにデータを解析していくと、そこには奇妙なパターンが浮かび上がってきた。

波動の一部が、明らかに数式としての意味を持っていたのだ。

私はその数式をデータとしてコンピュータに読み込ませ、分析を始めた。


「これは……次元の座標か。」


数式が示していたのは、私たちの宇宙に存在しない異なる次元の「座標」のようだった。


あの光の粒子は、崩壊しつつある宇宙のビジョンを私に伝えようとしていただけではなかったのだ。

座標とともに、波動の末尾に不自然な断片的な言葉が含まれていたのだ。


コンピュータをフル稼働して解読した。

それは「アンカーポイントを探せ」という言葉だった。


「アンカーポイントを探せ」私はその言葉を思わず声を出して読んでしまった。

それが一体何を意味するのかは分からなかったが、これが宇宙崩壊を防ぐ鍵ではないかと直感した。


そのとき、部屋の電気が突然チカチカと点滅し始めた。

私は背筋が凍るような気配を感じた。


「何かが近づいている――それも、ただならぬ存在が。」


「またか……!」

私は身構えた。

すると、目の前の空間が揺らぎ、あの光の粒子が再び現れた。

ただし、前回よりもはるかに不安定で、まるで暴風雨の中で必死に存在を保とうとしている人魂のように見えた。


「アンカーポイント……それはどこにある。」

私は叫ぶように問いかけた。


光の粒子は答えない。

代わりに、私の意識に再び膨大な情報が流れ込んできた。

だが、今回はその情報が混乱していた。

断片的なイメージが次々に現れ、私にはそれを繋ぎ合わせることができなかった。


「くそっ、もっとはっきり伝えてくれ!」


その瞬間、光の粒子のひとつが弾け飛び、部屋の中に高周波の音が響いた。

そして、私の頭の中に一つの言葉が明確に刻まれた。


「地球上の座標:38.8977N, 77.0365W」


私は急いでスマートフォンを取り出し、その座標を調べた。

表示された地名を見て、思わず息を呑んだ。


「ワシントンD.C.…。一体何があるんだ。」


私の脳裏には新たな疑問が湧いた。

アンカーポイントとは何なのか。そして、それが地球――しかもワシントンD.C.にあるというのは偶然なのか。


だが、疑問に思っている暇はなかった。

崩壊は進んでいる。

私はすぐに準備を整え、アメリカへ向かう決意を固めた。


第4話 地球の運命を握る場所


ワシントンD.C.――世界の政治と権力が集う都市。

この地に、私が探している「アンカーポイント」が存在するという。

だが、それが何なのか、どうしてここにあるのか、いまだに分からないままだった。


私は迷いながらも、アメリカへと旅立つ準備を整えた。


霊体物理学で培った知識と、異常な事態に対応するための簡易測定装置を詰め込んだバッグを肩にかけ、最早のフライトでワシントンD.C.へと向かった。


ダレス国際空港に到着したのは夜だった。

街はきらめく光に包まれていたが、どこか不穏な空気を感じた。座標を頼りに向かった先は――何とホワイトハウスだった。


「ホワイトハウス。」


私は首をかしげた。

だが、座標が示すのは紛れもなくこの場所。

世界中の権力の象徴ともいえる建物に、何かが隠されているのだろうか。


突然、頭の中にあの声が響いた。


「急げ。干渉が始まっている。」


干渉――それが何を意味するのかは分からなかったが、時間がないことは確かだった。

私はホワイトハウス周辺を慎重に調査することにした。


歩いていると、異様な気配を感じた一瞬意識を失った。

すぐに覚醒したが、おどろいた。

私が高級スーツを着た恰幅のいい白人になっていたからだ。


突然、シークレットサービスに囲まれた。

「大統領、大丈夫ですか。」


そこはホワイトハウスの敷地内でも、厳重に警備されたエリア。

シークレットサービスばかりでなく、周囲を巡回する警備員や監視カメラの存在が、私の目に入ってきた。


「こちらです、大統領。」


闇の中から低い声が響いた。

振り返ると、そこには黒いスーツに身を包んだ人物が立っていた。

その顔は見えないが、明らかに私を待っていたようだ。


「あなたは……誰。」


「質問は後です。私について来てください。」


シークレットサービスが道を開けると、その人物は私に背を向け、歩き出した。

私は迷ったが、選択肢はなかった。

彼に従い、ホワイトハウスの敷地の外れへと向かった。

やがて、彼は古い地下通路の入り口の前で立ち止まった。

最早二人きりだ。


彼が、私には全くわからない言葉を言うと、入り口の扉が低い音を立てて開いた。

中には、ひんやりとした空気と共に、かすかな光が漂っていた。

その光の色――まさに、あの「光の粒子」と同じだった。


「あなたは一体……。」


私は再び尋ねたが、彼は答えなかった。

ただ静かに、指で中を指し示す。


「早く入ってください。時間がない。」


不安を感じつつも、私は意を決して地下通路へ足を踏み入れた。


通路は細長く、壁面には謎めいたシンボルが刻まれていた。

見るたびに目が痛むような奇妙な模様で、それが何かの言語か、科学的な符号なのかは分からなかった。

ただ一つ確かなのは、これが人類の手によるものではないということだった。


奥へ進むにつれ、光の粒子が私を包み込み始めた。

やがて地下とは思えない広い空間にたどり着くと、そこには信じがたい光景が広がっていた。


巨大な球体が空中に浮かび、絶えず形を変えながら輝いている。

その表面には、私が霊体物理学で観測してきた波動のパターンが次々と現れた。


「これが……アンカーポイント。」


球体に近づこうとした瞬間、再び声が響いた。


「真実を受け入れる覚悟はあるか。」


私は立ちすくんだ。

この先に待つのは、私の理解を超えた真実。

そして、それを知ることで戻れなくなるかもしれないという恐れが湧き上がった。


だが、私は深く息を吸い、強い声で答えた。


「覚悟はできている。」


第5話 宇宙の運命を握る場所


この空間にたどり着く前。

暗い地下通路を進む中、私は感じていた。

何か特別な存在――ただの「アンカーポイント」以上の何かが、この先にあるのではないかと。


たどり着いた広大な空間の中には、浮遊する巨大な球体があった。

その表面では波動のパターンが絶えず変化し、私を吸い込むように揺れていた。

だが、それだけではなかった。

球体の手前に一人の男が立っていたのだ。


その姿を見た瞬間、私は息を飲んだ。


「あなたは……ジョン・F・ケネディ。」


そこにいたのは、間違いなく1963年に暗殺されたはずのアメリカ第35代大統領、ジョン・F・ケネディだった。

背筋を伸ばし、冷静でカリスマ的な微笑みを浮かべながら、私をじっと見つめていた。


「驚くのも無理はない。しかし、君がここに来ることは分かっていた。」


彼は落ち着いた声でそう言った。その声は、記録映像で何度も耳にしたあの独特の響きそのものだった。


「どうしてあなたがここに。あなたは暗殺されたはずだ!」


私は混乱しながら問いかけたが、彼は穏やかに手を挙げて制した。


「全てを説明するには時間が足りない。だが、ひとつだけ言えることがある。私の死は『表向きの出来事』に過ぎなかった。あの日、私はこの球体に呼ばれ、今のあなたのようにここに連れてこられた。」


「呼ばれた。」


ケネディはうなずき、続けた。


「この球体――アンカーポイントは、ただの装置ではない。これは多次元宇宙のすべてを繋ぐための意識体だ。宇宙の崩壊を防ぐため、特定の人間を選び出して導く力がある。そして、君もその一人だ。」


彼の言葉に、私は震えを覚えた。


なぜ自分がその「特定の人間」に選ばれたのか。

なぜケネディがここにいるのか。

謎は深まるばかりだった。


「では、なぜ私が選ばれたんですか。」


すると、ケネディの顔に微かな笑みが浮かんだ。


「それは君自身がすでに知っているはずだ。霊感――いや、君が築いた霊体物理学だ。それが君をここへ導いた。だが、問題はこれからだ。このアンカーポイントを通じて、君は崩壊しつつある宇宙へ直接アクセスしなければならない。そして、崩壊の原因を特定し、崩壊を止めなければならない。」


「それなこと可能なんですか。」

私は不安を隠せなかった。


ケネディは球体に近づきながら言った。

「可能かどうかではない。やらなければならないのだ。さもなければ、この宇宙も崩壊に巻き込まれて終わる。」


彼は私を見つめた。

その眼差しにはどこか神秘的な力が宿っていた。


「君にはその能力がある。だが、私には時間がない、この場から消える時が来たからだ。すべてをあなたに委ねよう。」


「消える。」


ケネディは頷き、球体に手を伸ばした。

その瞬間、彼の体はゆっくりと光に溶け込み、消えていった。

そして最後に、彼の声だけが響いた。


「君ならできると信じている。」


第6話 崩壊宇宙への突入


アンカーポイントのある空間は、想像を絶する広がりを持っていた。

足元に見える球体は、ただの入口に過ぎなかった。

私はその内部に引き込まれるように進むと、目の前に無限が広がった。

そこには、無数の星々と銀河が渦巻き、宙に浮かんでいた。


「これが無限なのか。」


しかし、それはあくまで「本物の無限」ではなかった。

この空間に収められた宇宙の縮図――崩壊寸前に取り込まれた宇宙の投影だった。


それでも私にとっては、まさに無限だった。

星々の間にはひび割れのような黒い線が走り、銀河の一部は消えかけていた。

空間全体が不安定に震え、まるでこの縮図そのものが助けを求めているようだった。


「これが……崩壊寸前の宇宙なのか……..」


その時、頭の中に再び声が響いた。

「これは過去ではない、現在進行しているリアルなのだ。」


私は言葉を失った。

つまり、この空間に映し出されているのは、過去に滅びた宇宙ではなく、今まさに崩壊しつつある宇宙の姿だということだった。


「どうすれば、この崩壊を止められるのだろう。」


私は周囲を見渡したが、答えは見つからない。

ただ、縮図の中央部――渦巻く銀河の中心に、異様な暗黒の塊が浮かんでいるのが見えた。

それは、崩壊の原因そのものに見えた。


私は進もうとしたが、目の前に突然、あの光の粒子が現れた。

いや、今度は粒子ではなかった。

それは人の形を模したエネルギー体――霊的な存在のようだった。


「あなたは……誰ですか。」


その存在は穏やかな声で答えた。


「私はこの空間の記録者だ。全ての多次元宇宙を繋ぎ、記憶し、守る使命を負っている。」


「記録者……。では、この崩壊を止める方法を知っているのですか。」


記録者は少し間を置いてから答えた。

「崩壊を止めるには、原因を排除しなければならない。そして、その原因はこの宇宙の中央部――『特異点』にある。だが、それに触れるのは危険だ。」


「危険だとしても、やらなければならない。そう言われてここまで来た。」


記録者は静かに私を見つめた後、頷いた。


「君の覚悟を試そう。この縮図には君自身の影響が反映される。もし君の心に迷いや恐れがあるなら、それは宇宙全体の崩壊を加速させるだろう。」


私はその言葉に息を呑んだ。自分の心が、目の前の宇宙に直接影響を与える――その重責に圧倒されそうだった。

しかし、ここで怯んでいては何も変わらない。


「わかりました。進みます。」


私は特異点に向かって歩みを進めた。

縮図の空間では、距離の概念が曖昧だった。

気がつくと、特異点が目の前に迫っていた。

そこには漆黒のエネルギーが渦を巻き、凄まじい重力を放っている。


その中心に、何か浮かんでいた。


それは超巨大なダイアモンドだった。


ダイアモンドには、様々な記号が刻まれていたが、それは見覚えのあるものだった。


「これは……私の霊体物理学の理論図に酷似している。」


私は驚き混乱に陥った。

そんな中、記録者の声が再び響いた。


「そのダイアモンドに触れることで、君は真実に辿り着く。そして、崩壊を防ぐ鍵を得られるだろう。ただし、それは君自身の存在をも揺るがす危険な選択だ。」


私は躊躇した。

しかし、ケネディの最後の言葉が頭をよぎった。


「君ならできると信じている。」


意を決して手を伸ばし、ダイアモンドに触れた瞬間、目の前が眩い光に包まれた。


最終話 無限の宇宙のケネディ


ダイアモンドに触れた瞬間、私は全てを理解した。

崩壊する宇宙、アンカーポイントの本質、そしてこの空間で私を導いてきた人物――そのすべてが、一つの点に繋がった。


「ケネディ大統領……あなたが、これを。」


彼は微笑みながら頷いた。

その姿は、かつて歴史の一部として教科書に載っていたものと変わらなかったが、その背後には人間を超えた存在感があった。


「そうだ、君が感じている通りだ。私は、この多次元宇宙に生まれた無数のケネディの一人。そして、このアンカーポイントを創り、多次元宇宙を守る使命を負った存在だ。」


驚きが私の全身を駆け巡る。


「どうして……あなたが。」


ケネディは静かに語り始めた。


「1962年のキューバ危機の後、私の宇宙の地球は、核戦争により破滅した。その時、私は霊感によって、他の次元の宇宙に飛ばされた。」


「それが、今私たちがいるこの宇宙だった。私はこの宇宙のケネディとして復活し、核戦争を回避した。」


彼は、私の目を見つめ続ける。


「私は、この宇宙にある地球を、崩壊の危機から救った。こんどは、君が無限にある宇宙に存在する無限の地球の危機を救わなければならない。君の存在が、無限に存在する地球を未来へ繋げることになるのだ。」


「つまり……あなたが私を導いてきたのは、大きな計画の一部だったのですね。」


ケネディは頷いた。


「そうだ。しかし、君の選択に強制はない。君がここに来て、その答えを導き出したのだ。」


私は再び周囲を見渡した。

アンカーポイントの中の宇宙は、崩壊を止めるために救いを求めている。

そして、それを救うためには私が次のアンカーポイントとなり、多次元宇宙の調和を維持しなければならない。


「私がアンカーポイントになる……そのためには…….」


ケネディは一歩近づき、私の肩に手を置いた。


「君が自分の意志で決断することだ。そして、その決断の瞬間に、君の存在は無限と繋がる。」


私は深呼吸をした。

この瞬間が自分にとって最大の試練であることを感じながらも、不思議と恐れはなかった。

ケネディの視線が、力強く、そして温かかったからだ。


「わかりました。私はやります。」


私がそう告げた瞬間、光が空間全体を包み込んだ。

その光の中で、ケネディの声が最後に響いた。


「君の決断が、多次元宇宙の未来を繋ぐ。無限の中でまた会おう。」


光の中で私の意識は拡張し、多次元宇宙全体と一体化していくのを感じた。

その瞬間、崩壊は止まり、無限の調和が戻った。


私が最後に見たのは、ケネディの微笑みだった。


彼の言葉が静かに響いた。


「未来を信じよ。そして無限を恐れるな。」


宇宙は静寂を取り戻し、私は新たな存在として再生した。

アメリカ合衆国第47代大統領として。


(完)

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