第3話

 (G山でのインタビューその1)

 「あら、テレビの人が来るなんて珍しいですね。気持ちいいでしょ。すごく空気が澄んでるんですよ。

 自然に囲まれてウォーキングしてるとね、身体の隅々まで新鮮な空気が行き渡るみたいで、気持ちが晴れるんですよね。

 殆ど毎週ここに登ってるわよ。それまでは酷い腰痛なんかあったんだけどね、今では健康そのものよ。


 ああ、高台に行くのね。まだ距離あるわよ。

 え?他に見所ねえ。そうねえ、高台から南の方にもう少し進むとね、あちこち湧水が出てるところがあるよよ。苦労して登ったところで飲む湧水は本当に生き返るよう。


 確か、昔のほら、行者さんだっけ、その人たちも修行しながらその湧水を飲んでたって言うのよ。行者さん達もすっごく長生きしたって言うから長寿になるとか、どんな病気も治るって言われてるわよ」


 (G山でのインタビューその2)

 「あら、なんだアンタらテレビの取材か。ああ、別に構わんよ、撮ったらあかんもんなんて何も無いわ。


 わしか?ずっとここに住んでるよ。電気もガスも水道もちゃんと通っておるし不便はないよ。

 この山はな、特別なんだよ。色んな恵みを与えてくれる。ここにあるもんは殆どこの山から恵んでもらったもんじゃ。


 山はな、怖いもんじゃない。ましてや特別な力を与えてくれるもんではない。畏怖すべきもんだとは思うがの。それは里のもんの言い分じゃ。ここで暮らすにはな、山と同化するしかないんじゃ。ここのルールで生きていく。まあ分からんよな。


 おお、これが気になるかい?お目が高い。これは特別なもんだ。これも山で拾ったもんじゃよ。ほれ、テレビで流すんじゃろ、撮ってってくれ」


***


 やっと高台に着いた頃には昼をとうに過ぎた頃だった。

 「佐和田さん、もう俺腰が限界っすよ」

 「なんだよ甘えたこと言ってんじゃねえよ。ほらやっと景色が撮れるよ、さすが噂通り悪くねえじゃねえか」


 「にしても、さっきの爺さん、凄かったっすね…あれ流さないっすよね」


 「当たり前だろ。あんなもんどう転んだって流せねえだろ。撮れってうるさいからとりあえずカメラ回したけど。

 やっぱりこんな何も無い山に住んでるとおかしくなっちまうんじゃねえか」


 「それは言い過ぎっすよ。俺だってあれ見た時はビビりましたけど。住んでる家からしてヤバかったっすけど流石にアレは…」


 「もういいよその話は。兎に角さ、どこに記念碑あるんだよ、そっからの眺めの絵さっさと撮っちまうぞ」

 「そうですね、あたりにそれらしいものは…あ!ありましたよ、あれじゃないっすか」


 高台から少し上がった芝生の先に石碑が見えた。

 「あれで間違いなさそうだな。さっさと行くぞ」

 芝生の奥の上り坂を進んでいく。

 石碑が近くなるにつれて違和感に気づいた。

 「あれ、これって記念碑なんですかね。墓みたいじゃないっすか。仏がなんとかって書いてある」


 「ほんとだな、ここに掘ってある慶長三年って今から四百年前とかだろ。いやでもこの石新しいから当時のもんじゃないよな。山に縁のある人の記念碑とか当時の人とかを供養するためのもんだろ。

 ああ、確かに眺めいいな」


 相間は早速カメラを構え眼前に広がる景色を映像に収めていく。


 ジジ…ジジジ…


 「あれ、なんだ、ノイズが入るな」

 「ん、なんだよ、ちゃんと撮れよ」

「あ、いや…何かこっちの角度なんですけど、なんか映像がチラつくんですよ」

 どう言うわけか特定の画角でカメラを構えると画面に黒い靄がかかるようだった。

 カメラの調子を整え直し再度カメラを回そうとしたとき。


 「あ、おい待て待て、あそこ花が供えてあるぞ。折角の景色に邪魔じゃねえか。退かしてこいよ」

 ここに来た時は気づかなかったが、展望台の端にひっそりと献花が供えられていた。

 「ええ、まじっすか先輩、嫌ですよ。さすがに気分悪いっす。花が映らない画角じゃダメっすか」

 「別に捨てろって言ってるんじゃねえよ。ちょっと映像とる間退かしてすぐ戻せばいいだけだろ」

 「もう…わかりましたよ。ちょっと動かしてくるんでさっさと撮っちゃいましょうね」

 そう言って山からの景色を映像に収めた。

 「よし、そしたらこっから先、湧水があるって言ってたよな。撮りに行くぞ」


 「ええ、マジっすか。確かにここから進めば湧水があるって言ってましたけど。どんだけ遠いのかも分からないじゃないですか」

 「まだ昼過ぎじゃねえか、今向かえば何かしらは撮れるだろ」

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