第2話

 ──あなたの街の自慢を教えてください。

 「ああ、えっとね、街の中心、本町にあるケーキ屋さん、『アピリ』って言うんですけど、すっごく人気なんです。チーズケーキが絶品でトロけるみたい。

 でも個数限定だから平日でも早くから並ばないと買えないんですよ」

 

 ──あなたの街の自慢を教えてください。

 「うーん、やっぱり『ゆーとぴあ』かな、市営の総合施設なんですけど、温水プールもあるし図書館だとか子供が遊べる広場もあるし。うちは子供が小さいんだけど、あそこに行けば一日中遊べて最高だよ」

 

 ──あなたの街の自慢を教えてください。

 「ああ、それならウチの高校の先生だよ。モノマネが上手くてさ、めっちゃ面白いんだ。

 この前なんて文化祭で芸人の◯◯の真似しててさ。それがめっちゃ似てるんだよ。

 もちろん大盛り上がりだったよ。


 おまけに、最後に恨めし節って言う踊りをみんなで踊るんだけど、先生張り切っちゃってさ。腰をやっちゃって暫くへっぴり腰で授業やってて。それがまた面白くって」


 ──あなたの街の自慢を教えてください。

 「ああ、うーんそうだなぁ、◯◯にある保育園でさ、幽霊が出るって噂だぜ。

 友達が昔そこの保育園に通ってたんだけど、なーんかジメジメしててさ、子供ながらに不気味だったらしいんだけど。

 そいつの弟がまだ小さくてさ、同じ保育園に通ってるんだけど、どうやら大人には見えない友達が出来たとかって言ってるんだよ」

 

 「あのぉ、佐和田さん、あの高校生の話、どうします?」


 「いやいや、昼の情報番組だぞ、使えるわけねぇだろ。大体この街に保育園なんていくつもないんだから、すぐ場所も特定されちゃうだろ。変な噂が広がろうもんなら速攻苦情もんだろ」


 「やっぱそうっすよね…ああいう話結構好きなんすけどねぇ、残念っす」

 

 「そんなら深夜の怪談系のラジオにでも投稿したらいいさ。とりあえずさっきのケーキ屋に絵だけとりにいくぞ。そこでまたこの街のランキング撮影出来たらラッキーだろ」

 

 「うちのパティシエが地元の農家さんから直接仕入れてるんですけど、すっごく濃厚な卵を使っていて。チーズもすぐ隣のお山で育った牛から絞ったものなので新鮮なのがウリなんです。お客様からもここのチーズケーキは格別だって、そう言ってもらえるんです。


 え、この街の自慢ですか?

 そうですねえ。やっぱりG山じゃないですかね。あそこはハイキングコースとしても有名だし、空気も凄く綺麗なんです。

 緩やかなコースになってるのでお年寄りでも気軽に登れるし、中腹にある高台からはこの街が一望できるんです。空気が澄んでるのですっごく眺めがいいんですよ。この街に来たら一度は訪れてほしいところですわ」

 

 「このお店にはもう五年ぐらいかしら、もうずっと通い続けてます。

 本当に美味しくって癖になっちゃって。

 ああ、G山の高台からの景色、本当に綺麗ですよね。


 高台の奥に、あれは記念碑かしら?ひっそり建ってるんですけど、そこが一番の絶景じゃないかしら。少し奥まってるので、きっと地元の人しか知らないと思うけど、本当にいい眺めなの」


 ケーキ屋で一通り映像を撮り終えた車内にて、佐和田が口を開く。

 「おい相間、明日はG山に行くぞ。絵を撮ってみてだが、とりあえずランキング上位なのは確定だな」

 「ええ…やっぱり行かないとダメっすかね。重い機材担いで山登りなんて大変っすよ」


 「仕方ないだろ、大したもんなんてない街なんだから。市の施設がこの街の一位です、なんて番組誰が見たいんだよ。

 とりあえず山のコースと展望台で上位二位確定でもいいんじゃねえか」

 「まあそれしか無いっすよねえ。機材は半々でお願いしますよぉ」


 「しゃあねえな、まあいいだろ。それよりよ、出張費だってバカにならないんだ、明日であらかた撮り終えるぐらいの気持ちで進めないとな」


 「xxテレビも広告費が年々減ってますからねえ。佐和田さんも家族いると大変じゃないっすか?俺なんて独身だから薄給でもやってけますが」


 「うるせえな、田舎じゃ金は無くても何とかなるもんだよ。それよりもさ、あんま家空けるといい顔されねえから、モタモタしてるほうが問題なんだよ」

 「ああ、お子さんもまだ小さいんでしたね。出来た奥さんだなあ、佐和田さん出張ばっかですもんね」


 「いいんだよ俺の話は。それよりG山のことだ。あんだけデカいんだから他にもランキングに入れられるものもあるだろ。それっぽいもんなら何でもいいからよ。明日はちゃんと映像に収めろよ」

 「わかりましたよぉ」

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