第4話
翌日、泉名と虎元は再びあの村を訪れていた。
あの町内ではこれ以上の調査は難しいと判断した。新たに判明した事実を持って再度旧波城村での聞き込みをすることにした。
加えて、波城神社に何か情報が残されていないか、改めて確認を取る腹積りだった。
波城村へ向かう道中。
相変わらず畑や雑木林に取り囲まれ、閑散とした景色に、果てしなく路地だけが伸びている。その隙間に点々と、秩序なく民家が存在していた。
民家の間隔が大きく空いていることもあり、人の姿が全く見当たらない。なんとも寂しいところであった。
この村には役場というものがない。市町村合併の際に役場の機能は移転され、今では公民館として利用されていた。
そこから通りを挟んで東側に行くと、この村で唯一の売店があった。この村では売店は一軒だけのようで、生活雑貨やら簡単な食品は皆ここで調達しているようだった。
売店の店主、六〇絡みの大柄な女性に話を聞いた。
「あら、あなた達ね。確か、大学関係の人だったかしら?この前、しんさんが話を聞かれたって。ああ、小さい村だからね、噂なんてすぐに広まるのよ」
何故か前回ここに来た我々のことを知っているのだ。小さい集落では当たり前なのだろう。
「そうでしたか。その、ご老人には非常に興味深いお話を聞かせて頂き助かりました」
「ああ、あの人も話好きだもんねえ。もう変なことばっかり言って大変じゃなかった?あでもあなた達もそれを調べに来たんだもんね、願ったり叶ったりだったかしら。
ナミシロさんに興味ある人なんて滅多にいないからねえ。
それにしてもこの村。何にもないところだけど、落ち着いていていいところでしょ。私なんかここの暮らししか知らないからアレだけど。
都会と違ってゆっくりしてるのもたまにはいいじゃない?」
店主もまた話好きな部類に入るのだろう。
話始めると止まらない様子だった。
「あの、実は今人を探していまして、もしかしたら波城神社に縁のある人かもしれなくて。ご存知でしたらお話を伺いたいのです。
この方なのですが──」
といって細井の写真を取り出した。
「あらあ、若い人ね、悪いけど見てないわね。村の外から滅多に人なんて来ないからね、こんな若い人が来たらすぐ噂になるはずよ。
特にお店なんてここしかないんだし。私が知らないなら来てないってことよ」
「そうですか…ひょっとしたら私たちがこの村に来た後、波城神社を訪れているかも知れないのですが」
「そうねぇ、ナミシロさんに行くならこの道を通るしかないし。誰かしらは見かけてるかもしれないわね」
「そうですか…」
どうやら細井についての目撃情報は無いようだった。
「もう一人探している人がいまして。こちらの男性についてもお伺いしたいんですが」
続いて榊田の写真を見せる。すると突然女性の表情が固まった。引き攣ってるようにも見える。
「あなた、これは何、どういうつもりなの?」
「あ、いえ…この方についても探していまして、もしこの村を訪れていたらお話しを聞かせて頂きたいのですが」
「知ってるわけないでしょう。あなた達、何を調べているの?
悪いけど、力になれることはないわ。すぐに帰ってちょうだい」
店主はそう言うとすぐに話を切り上げて店の奥に入っていってしまった。
虎元が声をかける余裕すらないほど一瞬の出来事であった。残された二人は呆気に取られたままその場から動けずにいた。
「え…なんなんでしょう、あからさまに態度が変わりましたよね」
「榊田さんを知っているような反応だったね。。
何か都合の悪いことでもあるのかな…怯えたような顔をしているようにも見えたけど」
「そうですね…でもこれからどうしましょう。これ以上話を聞くのは難しそうですし」
「とりあえず、向かいの公民館にでも行ってみようか。街の中心ではあるし、誰かしらいるかもしれない」
そう言って二人は来た道を歩き出した。
公民館にといっても、資料館としての役割もあるらしく、受付があり、待合スペースのようなところもあった。
その公民館の入り口を入ってすぐのところに何人か老人が話し込んでいた。
「あの、こんにちは」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます