第2話
こんにちは、泉名探偵事務所で助手をしています虎元と申します。
探偵事務所といっても全くの無名、精々が大手事務所への依頼から漏れた仕事を請け負いながら、細々と食い繋いでいる。そんな事務所でございます。
今日もまた暇を持て余しながらいつやってもいいような書類整理をしていました。
そんなある日の事、滅多に鳴らない事務所のドアベルが鳴りました。
チリリン…
そこには、先日どこかで見た覚えのある男性が立っていた。
「あれ、ええと、この前の…」
「先日はすみません、立原です。あの、樫美町の細井さんのご自宅前でお会いした」
「ああ、立原さんですか。確か、自治会長をされている」
「ああ、はい、そうです。
連絡もせず急に伺ってしまってすみません。
相談といいますか、なんといいますか。変な話なのですが…」
あの町、細井の自宅では散々な目にあっていた。
正直気が進まないが、話だけでもと思い渋々話を聞くことにした。
「実は、町内にお住まいの方の行方が分からなくなっていまして。
その方──榊田さんというのですが、父が生前、自分がいなくなったら面倒を見るようにと言われていまして。
いや、父より年下ではありまして。確か六十代後半かな、まだしっかりされてる方ではあるのですが、長く一人暮らしをしていらして。
父も一人だったので、お互い気が合ったみたいで。まあ、飲み友達みたいな、そんな関係だったそうです。
父が亡くなった際も色々手伝ってくれたりして、私としても助けられていました。
面倒を見るといっても、たまに様子を見に行って、家のことを手伝ったり、草むしりをしたり、そんな感じだったんです。
それで、つい先日──
ちょうど虎元さんと会った日のすぐ後ですね。休日だったので様子を伺いに榊田さんの家に行ったですが。
鍵が開けっぱなしになっていて、人の気配がない。元気な方とはいえやはり心配ですから、失礼と思いながらもご自宅の中に入らせてもらいまして。
そうしたら、家じゅうが泥が乾いたようなあとが至る所にある。何かあったのだと直感しました。
それで、少しご自宅の中で榊田さんを探させてもらったのですが。ふと書斎の机の上を見ると、こんなものが束で置いてありまして」
そう言って立原な差し出したものを見て側頭しそうになった。
その写真には、手前に鳥居があり、その中を手入れがされていないであろう砂利道が伸びている。そしてその先には…小さな社が覗いていた。
「こここ、この写真…波城神社の!」
「え…!?この写真をご存知なのですか?」
「え、ええ、これ…依頼人のいることですから、詳しくは伝えられないのですが。
細井さんのご自宅を訪れていたのも、この写真を調べるためでして」
「え…それじゃあ、細井さんもこの写真を持ってたんですか?」
「え、ええ、持ってたというべきか、なんというか。一方的に郵便受けに投函されていて気味が悪いと悩んでいた、と」
「…なるほど。でもそれって、榊田さんが細井さんの家にこの写真を投函していたってことですか?」
虎元は再び写真に目をやった。
数十枚はあるだろうか。全て同じ写真であった。
「断言は出来ないですが、その可能性はありますね」
「あの、そしたらこれも分かりますか?一枚だけその、違うものが。この紙が折りたたまれて挟みこまれていまして。
この紙だけ泥が乾いたように汚れているので…何か意味があるのかわからないのですが」
そこには小さな女の子の写真と、『*****チは見ています。いつ**も見**います』(*は判別不能)、という意味不明な殴り書きがされていた。
ぱっと見たところ、所謂探し人を知らせるためのチラシのようにも見える。
「これ、行方が分からなくなった人を探すときのチラシみたいですよね。
でもそれだと、相場は『探しています』だろうし。『見ている』ってなんだろうと」
「うーん、これは細井さんから頂いた情報には無かったですね。ただ、なんだか気味が悪い──『あなたを見ている』、ですか。それにこの紙だけ凄く汚れている。何故こんなに汚れるようなことになったのか。
ああ、それで、榊田さんはそのまま行方不明になったのですね。どこか榊田さんがいなくなる理由に心当たりはないのですかね?」
「ええ、結局そのまま榊田さんは自宅に戻らないまま。
運の悪いことに、榊田さんの家は少し奥まったところにあって、近所に住む人も姿を見ないことも多くて。
いつからいなくなったかも不明瞭なのです。
最後に見たのは、二週間ほど前、ゴミ捨て場の掃除をしていたところでばったりあって立ち話をしたくらいです」
「その時はどんな感じだったんです?」
「いやあ、いつも通りでしたね…榊田さん、将棋が好きで父とよく打ってたんですが、そのときの思い出話なんかしたり。
僕も今度教えてもらおうとか、そんな話をしていました。特に思い詰めているだとか、変わった様子はなかったと思います」
「成る程。ご家族や仲の良かったご友人の情報はありますかね?」
「いや、それがずっとお一人で暮らされていて、そういった過去のことを聞かれるのが嫌なようでして。
前に昔のことを聞いたことがあったのですが、はぐらかされてしまいました。
ただ、ここに住んでからはそんなに長くはなかったようです。父ともここ数年の付き合いでした。あの、細井さんはその後どうなったのですか?」
「あ、そうですね…。ええ……本来は守秘義務があるのですが…」
この際仕方がないだろう。
あれ以来連絡が取れなくなっていることを伝えた。
「わかりました、ご依頼はお受けします。
細井さんのこともありますし、何か他に情報があれば教えてください」
「よろしくお願いします。細井さんが戻ってきたりしてたら、こちらからも連絡させてもらいます」
次の更新予定
2024年11月16日 16:00
怪文書が示すモノ 千猫菜 @senbyo31
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。怪文書が示すモノの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます