第4話

 昼を過ぎた頃、やっと神社の入り口近くに到着した。


 神社まで続く山道は、細く随分と曲がりくねっており、幾度も折り返しながら緩い坂道を登ってくる必要があった。


 まだ日は高いのに周りは異様に暗い。

 木々が高く生い茂っており日を隠しているためだった。


 狭い参道は、歩くたびにジメジメとした感触が足に伝わってくる。まるで、来る人を拒絶するような、立ち入ることを拒んでいるような、そんな雰囲気であった。


 「この先が波城神社だね。鬱蒼としてるなぁ」

 「結構歩きましたけど、やっぱ人の手が入らないとこんなに荒れちゃうんですねえ。

 それにここ、なんか湿気が凄いですよね」


 「ああ、ここに鳥居があったらしいね。

 折れてしまっているが、ほら、左右に木の破片が転がっている」


 微かに朱い色味が残っている。

 かなりの年月が経っているのだろう、それもまた自然の一部と同化している。


 「この先のはずですよね。

 ああ…もう殆ど道がないぐらいになっちゃってる」


 草木が生い茂る道を踏み締めるように前に進む。


 「あ、ありましたありました。

 あそこに建物が見えます」


 少し開けてきたところであることに気づいた。


 「あ…ここ!あの写真のアングルってこの辺からのものじゃないですかね。

 ほら、向こうのほうに神社があって、手前に石畳がある。


 どうだろう、ここを下のほうから撮ってみると同じ感じになるんじゃないかな」

 地面ギリギリで写真を撮ってみる。


 「うーん、確かに近い気がするなあ」

 社の中が辛うじて覗いている。


 「何か人影に見えそうなものってありそうかい?」


 「そうですね……」

 撮った写真を確認する。


 「うーん…それっぽいものは特には」


 「そっか。まあ写真の話はそんなところにして、とりあえず中に入ってみようか」


 雑草混じりの砂利道踏みながら戸口の前に進む。

 手元の明かりを照らしながら、境内の中に足を踏み入れる。


 中は想像していたよりがらんとしている。

 床は随分と痛んでいるが、まだ抜け落ちそうな感じもしない。


 吹き抜けだからだろうか、異様に涼しい。気温が何度か下がったように感じる。


 「綺麗なもんだね、というか、何もない」


 「本当ですね。神主さんがここを閉じる時片付けたのかな……これじゃあの写真にあるような影になるようなもん何もないですよ」


 「ああそうだね。鬼が地下の土豪に封印されているって言う話だけど、作りもこれと言って。

 普通の神社って感じだよね。


 あ、カレンダーだ。平成三年か。その頃までは人がいたんだね」


 そらからも境内を散策してみたがあまり目立った発見はなかった。

 他の部屋も探してみることにした。


 「あ、こっちは社務所かな?この部屋は色々残ってる」


 「これ、奉加帳だ、ほら、寄付した人の名前を書いているやつ」

 泉名が手元の紙を何枚かパラパラとめくっていく。


 「ん…細井って、偶然なのかな。かなり上の方に名前がある。

 こっちにも、こっちにもだ。毎年寄付していたみたい」

 奉加帳には細井欣三と名前が書かれていた。


 「ああ、なんか最後の年だけ住所が変わってる。

 他はK原市山部区、この近くなんだけど、最後はJ宮市になってる。

 ここって細井さんの住んでるところじゃない?」


 「ということは、この細井欣三さんって、相談者の親類の可能性が?

 確か、昨年お父様を亡くされて。

 細井さん自身はそのままご実家に住まれていたとか。

 お父様かも知れませんね」


 「目的がわからない怪文書のように思えたけど、あながち細井さんとも無関係ではなかったというわけか」


 その時──

 

 パキッ…ドン!

 

 「うわ…!」


 「びっくりした…気のせいだよね、、何かが動いたような音ですよね」

 突然襲った何かの音に内心どきりとした。


 「まあ、こういうところならよくあることだからね…」


 その後も散策をしたが、これ以上の手がかりは見つけられずに終わった。

 日も落ちかけてきたのでこの日は捜索を終え、退散することにした。

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