其の弐 廃神社の鬼

第1話

 こんにちは、泉名探偵事務所で助手をしています虎元と申します。


 探偵事務所といってもごく小規模の、個人経営に毛が生えたようなものでして、日々を食い繋いでいくだけで精一杯、そんな事務所でございます。


 今日もまた暇を持て余しながらいつやってもいいような書類整理をしていたところ、事務所のドアベルが鳴りました。

 

 年齢は四十を少し回ったぐらいでしょうか、少しおっとりとした雰囲気の、人の良さそうな丸顔の男性が立っていました。


 「あの、相談に乗ってほしいのですが…」


 不安そうな声で、振り絞るように男性は口を開きました。

 

 その男性、細井祐介と名乗る男をソファーに座らせると、細井は淡々と話始めました。


 「実は、妙な手紙が届くようになりまして、その、繰り返し送られてくるものですから気味が悪くて。辞めてほしいのですが、誰が送っているものかもわからなくて。」

 

 細井は幼少の頃に母を亡くし、長いこと父と二人で暮らしていたそうだ。

 昨年、その父親も亡くなり後に残った家で一人で暮らしていた。


 古い家であったものの、父との思い出も沢山詰まった家であったこともあり、一人暮らしには広すぎると思いながらもそのまま暮らしていた。


 そんな家におかしな手紙が届くようになったのはつい三ヶ月ほど前のこと。

 

 「これがその手紙でして」

 

 そう言って細井は虎元の前によれた印刷物を差し出した。

 

 そこには、一枚の写真が印刷されていた。


 小さな鳥居越しに砂利道が伸びている。その先には、小さな、そして古い社が控えめに鎮座している。入り口は開け放たれ、社の中が薄ぼんやりと見える。


 周囲は鬱蒼としていて薄暗く、人を寄せ付けない何かを感じさせていた。


 社の中は薄暗く、はっきりとは認識できないものの、人のようにも見える影が覗いている。

 気味の悪い写真だと思った。

 

 裏返してみると、細井の住んでいるであろう住所、細井の名前が記載されていた。

 すぐに、消印がないことに気づいた。


 「これ、直接郵便受けに投函されたものではないですか?消印がありませんね」


 「やっぱり…繰り返し送られてくるので。

 いつ投函されているのだろうと頻繁に郵便物を確認していたのですが。


 前の日の夕方に何も届いていないことを確認してから、翌朝には郵便受けに入っていることに気づきまして。


 さすがに夜間遅い時間に配達するだなんて考えにくいな、と思っていました」


 「何か心当たりがあったりしますかね。

 悪戯にしては意図がわからないですし、例えば細井さんを苦しめたい人がいるとか、この神社に身に覚えがあったりとか。」


 「それは、自分が気づいてないだけという可能性もあるので…ないとも言えないですが。

 お恥ずかしい話、引っ込み思案な性格のせいで友人も殆どおらず、知人と呼べるのも二十年前から働いている職場の人間ぐらいなのです。


 小さな会社なこともあり、同僚自体もそれほど多くない感じでして。

 異性の知人も友人もろくにおらず、思い当たる節が本当にないのです。」


 男は照れ隠しらしい苦笑いを浮かべた。

 優しそうで物静かな性格が伺える。自分を必要以上に卑下している訳でも何かを隠そうとしている訳でもなさそうだった。

 

 「わかりました。お力になれる保証はないですが、調査はさせて頂きます。

 まずは、細井さんの家に監視カメラを設置させてください。運良く投函した人物の顔がわかるかもしれない。


 それから、この写真の神社がどこのものなのか、何か手がかりになるかもしれませんので、お借りさせて下さい。

 その道に詳しい人物に当たってみようと思います」


 そう言うと、細井は安心した様子で、助かります──そう、礼を言って細井は帰っていった。

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