第2話
翌週もまた、同じ怪文書が貼られております。何度剥がしてもまた元に戻っている訳です。
剥がしては捨て、また剥がしては捨てることを繰り返していたある日の朝、この日は生憎の雨でした。ゴミの収集日でしたので傘を差し、ゴミ捨て場に向かいます。
正直、またあのチラシが貼ってあるのではないかとなんとも憂鬱な気持ちで家を出ました。
ゴミ捨て場が近くなってくるにつれ、いつもと違った感覚を覚えました。
視界の遠く──例の掲示板の少し手前に、色白な、可愛い小学生ぐらいの女の子が長靴姿で傘をさし、ぼーっと掲示板のほうを見ています。
この辺では見かけない子だな、なんて思いながら近づきます。しかしそこである事に気がつきました。
雨足は強く、傘をさしていても濡れてしまうほど。女の子はじーっとどこか一点を見つめているようでした。
何か困っているのではないか、と流石に心配になって声をかけました。
「こんにちは、凄い雨だけど大丈夫かい?」
ですが女の子は無言のまま。
「誰か待ってるのかな?困ったことがあるなら教えてくれるかな?」
そう声をかけたところで、やっと女の子がこちらを振り返ります。
一瞬で凍りつきました。
その女の子の顔があまりにも恐ろしかったのです。目が赤く充血し、黒目が異様に大きかったのです。
口元は歪んでおり怒りを滲ませた顔をしています。そしてゆっくりと。
「見てるぞ。ずっと、見てるぞ──」
恐ろしい声に思わず。
「うわあ!」
大きな声をあげてしまいました。
あまりの恐怖でその後のことはあまり覚えていません。気がつくと家の前にいました。
どうやら逃げるようにその場から離れ、家に帰ったようでした。
その日の夜のことです。
さすがに今日の恐ろしい体験が目に焼きついて中々寝つけません。目を閉じるとあの女の子の表情が嫌でも思い浮かんできます。
しかし、そうは言っても疲れてはいたのか、暫くそうしているうちにいつの間にか眠ってしまったようでした。
寝室で寝ていると、外のほうで音がします。
トタン、カタン…カサ、カサカサ…
時計を見ると深夜の三時過ぎ。いつもは静かな住宅街ですから、誰かが歩いている訳もありません。
嫌な予感がします。金縛りにあったように体を硬直させ、その日は朝まで眠らずに過ごしておりました。
次の日の朝、恐る恐る玄関先に出てみますと、ぞくっとしました。
郵便受けの受け口が泥だらけになっているのです。
恐る恐る受け口を開け、中を覗いてみると──
そこには、無造作に放り込まれるように、紙が入っていました。
ゆっくり手に取ろうと手を伸ばします。ぐにゃっと嫌な感覚が手に伝わりました。
ああ──嫌だなあと。
手元を見ると、じっとりと湿った泥のようなものが付着しています。
恐る恐るその紙に目をやると──そこにはこう書かれていました。
『剥がすな、剥がすな、はがすな、剥がすな、ヤメロ、ヤメロ、やめろやめろヤメロ剥がすなはガスナハガスナ』
異常なまでの抗議の気持ちが塗りたくられていました。掲示板に貼られた例の怪文書、それを貼った人間が家まで来たことは明らかでした。
昨日の女の子が関係しているのか?
あの後ここまでついてきていたのか?
様々な考えが脳をよぎります。そのとき、恐ろしくなり手を離したため、紙が地面に落ちました。
反射的にそれを目で追います。
背後に落ちたのでちょうど振り返るような格好になりました。ふと目線を上に上げると、見慣れた街並みが目に飛び込んできます。
その視線の向こう側に。
黒い靄のような影が動いたような気がしました。
その影はグネグネとした動きで体を揺らしている、と思っていると、すぐさま黒い影は消えてしまいました。
もしかすると見間違いだったのかも知れませんが。
もしあれが人だとすると。
一体誰だったのでしょうか。
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