怪文書が示すモノ
千猫菜
其の壱 泥
第1話
怪談師の猫又と申します。
普段は都内で怪異奇譚の収拾やら、怪談の真似事をして慎ましくも暮らしております。
さて、本日はとある街で遭遇した怪奇な出来事、俗に言う怪文書に纏わる不思議な話をご紹介致します。どうぞ最後までお聴きください。
この話はとある街で自治会長を務めておりましたA氏の体験した出来事であります。
この街での自治会の主な仕事ですが、要するに住民が気持ちよく暮らせるような環境を作ること。
例えば、ゴミ捨て場の管理やら清掃、回覧の仕分け、掲示板の管理など多岐に渡っておりました。
A氏は七十手前になり、昨年、長年連れ添った妻を亡くしたこともあり、孤独な環境での暮らしでありました。
そんな中でも街の一員として、皆に求められ、貢献できる仕事がある──そんなことが生きていく上での活力となり、なんとか今日という日を暮らしておりました。
さてある日のこと、いつものようにゴミ捨て場の点検をしていた際、ゴミ捨て場の横手に設置されている掲示板に目をやりました。
いつもと違った違和感があったことを今でも覚えております。
おや…?と思って近づいてみると、掲示板の一角に奇妙なチラシのようなものが貼られていることに気づきました。
そこには、泥のようなもので薄汚れた紙に。
「*****チは見ています。いつ**も見**います」(**は判別不可)
と書かれていました。
そして何より、チラシには女の子、歳の頃は小学生低学年の頃でしょうか、こちらを真っ直ぐ見つめている写真が載せられています。
A氏は言いようのない気味の悪さを覚えました。もちろん自治会の管理している掲示板ですから、許可もなく勝手に掲示物を貼ることは許されておりません。
仕方なくチラシを剥がします。チラシの端を手で掴み、ゆっくりと下に力を入れていきます。
すると。
ベロンと捲れた紙の裏面には。
びっしりと泥のようなものが付着しておりました。
そう、泥で擦り付けるようにしてこのチラシは貼られていたのです。
気持ち悪さに耐え、なんとか剥がし終え、軽く掲示板の清掃を行い、その怪文書──それをゴミ捨て場に纏めてその日は終えました。
その翌週、何気なく掲示板の近くを通ると。また同じ紙が貼られていました。
今度は書かれた内容が殆ど判読できないほど、びっしりと表面にも泥が塗られ、唯一女の子の顔が微かに見える程度でした。
すぐにチラシを剥がしそのままゴミ捨て場に置きます。
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