伝承教室、大盛況です
あれから数か月がたった。
最初は村の子どもたち数人と、こぢんまり始めた伝承の集まりだったのが、今や発表会を開くまでに成長してしまったのだから、自分でも驚いている。
今日は子どもたちの「お話リレー」の発表会だ。
伝承をもとに、みんなで少しずつ物語をつないできた成果を披露する日。
参加者も村の子どもの半分くらいにまで増え、広場にはぎゅうぎゅうに詰めた親御さんたちや、市場の人たちもいて「祭りだ!祭りだ!」と屋台まで出ている。
あたりは活気であふれていて、なんだかにぎやかでいい感じだ。
だけど、一際目を引くのが、広場の一角にどんと置かれた、場違いなほど豪華な天蓋付きの玉座。
そこにちょこんと座っているのは、本物の王宮のお姫様だ。
どうやら、夫が王宮に原稿を届けたとき、この「お話リレー」のことを軽く話したら、それがいつの間にかお姫様まで伝わって「私も一緒に遊びたい!」となってしまったらしい。
周りの人たちが「せめて見学だけでも…」と何とかご機嫌をとりつつ、今日は姫様専属の騎士たちまで大勢のお付きで来ている。
まさかこんな大ごとになるとは思ってもみなかった。
ふと広場を見渡すと、子どもたちはそんなことも気にせず、いつも通りで「早く本番やりたい!」とそわそわしている。
反対に、親御さんたちはお姫様の前で失礼があってはと、みんな緊張でそわそわ。なんだか、もうしわけない。
ふと夫のほうを見ると、あいかわらず落ち着いた顔でお姫様とにこにこ話している。
どうしてこんなに緊張感がないのかしら、この人は。
こういう状況では本当に器用だなあと思う。
まったく、気づいたら村長さんも巻き込んで、いつの間にか姫様までお連れして、ちょっと頼もしいというかなんというか、夫ながら感心してしまう。
とりあえず、私がここで緊張しても仕方がない。
今日の主役は子どもたちだし、私の役目はただ見守って、みんなが無事に楽しく発表できることを祈るだけ。
そう思うと、少し肩の力も抜けて、にぎやかなこの時間を素直に楽しもうと思えてきた。
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