伝承教室はじめました

 夫が「編纂師のなり手が少ないんだよね」とぼやいたものだから、「じゃあ、あなたが育ててみたら?」と、何気なく提案してみた。

 夫もその気になってくれたし、私も少し手伝うくらいかな、なんて軽い気持ちでいたのだ。


 ところが、気づけば私がその任務を任されている始末。

「あれ?おかしいな?」と思うものの、こんなこと、別に珍しくもない。

 夫が「やろう!」と勢いよく言い出して、結局、気づけば私がその大半をやっている、なんてのはこの日常の一部みたいなものだ。


 しかも、夫が話を村長さんにまで通してくれたおかげで、私が村の子どもたちに伝承を教える先生になることがあっという間に決まってしまった。

 ちょっと気が重いような気もしたけれど、村の子どもたちの顔を思い浮かべると、なんだか新しい挑戦のようにも思えてきて、次第に面白くなってきた。


 ただ、「伝承を調べて物語を書く」って、どう教えたら子どもたちが興味を持ってくれるのか、ちょっと悩んでいた。

 村の子どもたちは、妖精整理人の見習いをしたり、市場でごっこ遊びをしたりと、毎日楽しそうにしている。

 伝承の話なんて、正直聞いてくれそうもない。


 でも、ふと「お話リレー」の遊びが頭に浮かんだ。

 まずひとりが主人公を決めて、最初の出来事を話す。

 次に別の子がその話を引き継いで、どんどん場面をつなげていく――そんな「お話リレー」なら、きっと楽しんでくれるんじゃないだろうか?


 たとえば、簡単な伝承をお題として出して、最初の子に主人公を決めてもらう。

 次の子がその行動を考える。

「森で光る石を見つけた」「お城から手紙が届いた」なんて、話があっちこっちに広がって、途中でモンスターと出会ったり、思いがけない出来事が起きたりして、きっと賑やかな物語になるに違いない。

 こうして子どもたちそれぞれが好きなことを加えながら、思いがけない冒険話ができあがる。


 こうしてみんなで作り上げる物語は、ただ伝承を聞くより、ずっと面白いかもしれない。

 気に入ったシーンができたら、誰かが絵を描いてみたり、物語ができあがったらみんなで大人に披露するのも良さそうだ。

 なんだか私も一緒に楽しめそうだし、少し気が楽になってきた。


 さて、そうと決まれば、久しぶりに夫の本棚から「夢幻の千夜譚」を引っ張り出して、どのお話をリレーの題材にするか考えようか。

 準備は大変かもしれないけれど、なんだかいい経験になりそうな気がして、少し胸が弾んできた。

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