あの調味料
醤油が恋しい。
けれど、ここは異世界である。
この世界に醤油なんてものは存在しない。
最初は「まあ仕方ないか」と思っていたのに、ふとした瞬間にどうしようもなく醤油の味が頭をよぎる。
なんとも言えないあの香ばしさ、そしてほんのり塩辛い、けれどやさしく包み込むような風味。
それを思うと、どうしても、あの味を探したくなってしまうのだ。
そこで、私は代わりのものを見つけてやろうと思い立った。
市場を歩き回り、見たこともない植物や、見慣れない調味料を手にとっては
「これはどうだろう?」「あれはいけるかも?」と試してみる。
けれど、そうやって新しいものに出会うたびに、醤油とはほど遠い味ばかりでがっかりする。
ごくたまに似ているものと出会ったりして、期待を寄せて口にするたび
「ああ、違う…」と、どうしようもなく落ち込んでしまうのだ。
「もう探すのはやめよう」と、何度も思う。
諦めてしまえば、この落胆から解放されるのかもしれない。
だけど、気づけばまた市場に足を運び、あれこれと調味料を手にとってはクンクン匂いをかいだり、ちょこっと味見をしたりしている自分がいる。
どれもこれも違う。わかっているのに、なぜか探さずにはいられないのだ。
醤油なんて、大したものではないはずなのに。
あんな小さな瓶に詰まったあの香りと味が、いつまでも心から離れてくれない。
おかしいのはわかっているけれど、それでも結局のところ、また明日も私は市場をうろうろしては「これも違う」とがっかりし、ちょっとだけ心がしおれてしまうのだ。
それでも、やれやれとため息をつきつつ、今日もまたあの醤油の味を探してしまう。
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