夜食の光花クッキー

 また夫が締め切り前の徹夜をしている。

「今夜も徹夜だよ」なんて、泣きそうな顔で夫は言うけれど、締め切りまで半年以上あったことを私は知っている。


 伝承を聞きに行くのも先延ばしにして、つい数日前にバタバタと二人で出かけたばかりだ。

 そこから書き始めるまで数日かかって、ようやく取りかかったかと思えば、残り1日半になって慌てだすのも、これまたいつものこと。


 結婚したての頃は「なんで早くやらなかったの?」なんて真顔で聞いてしまって、ちょっとしたけんかになったこともある。


 でも、今では「うんうん、徹夜は大変だね」と、ただ頷けるようになった。

 あの頃は若かったな、なんて思い出しながら、夜食用にお茶と光花のクッキーをお盆に載せて夫のところに持っていく。


 このクッキーは「光花」という花の粉を混ぜて焼いたもの。

 ほんのり明るく光を放つのが特徴で、夜中でも手元を照らしてくれる。夫の徹夜には欠かせない夜食だ。


 夫にお茶とクッキーを手渡してから、私も自分のお茶を淹れて、作業中の夫の後ろで本を開く。

 こうして付き合うようにしているのだ。

 夫は目を離すとすぐに寝ちゃう人だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る