買い物
夫に何かを頼むと、すんなり行った試しがない。
たとえば、森の香りを移すと言われる「霧草の粉」や、夜明けの光を集めたような「暁の実」なんかを頼んでみる。
異世界ならではの物とはいえ、どちらも近くの市場で手に入るごく日常的な品だ。
でも、夫がうまく買ってきた試しがない。
たとえ頼んだものがほとんど揃っていても、必ず一つは何かが足りない。
袋の中をのぞき、「あれ、肝心の霧草の粉は?」と聞くと、「ああ、忘れた」なんて、悪びれた様子もなくのんきに笑っている。
私はそれに少しあきれながらも、次は何が抜けているだろうと逆に楽しんでいるところがある。
我ながらおかしな楽しみ方だなと自覚はしている。
たまに、買い物が冒険になることもある。
なんでも、道中で不思議な光を見つけて追いかけたら、気づけば見知らぬ村で我に返ったというのだ。
最初は「そんなバカな」と驚いていたものの、結婚して半年もすれば、そうした心配もだんだん薄れてきた。
「帰ってこないならこないで、そのうち帰るだろう」と私も思うようになってしまったのだ。
結婚生活も十数年、慣れというのは本当に怖いのである。
きっと次に頼んでも、また何かが足りないか、あるいは新しい大冒険に出てしまうんだろう。
でも、不思議と、「今度はどんな話をしてくれるか」──それがちょっと楽しみになっているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます