第32話

「一緒の墓に入ろう。」





「――――え」


「死ぬ時も一緒だし、死んだ後も一緒だよ。」




 ――――たった今、5段活用していただけなのに、どこから急にそんな話になるのか。



 なにか沢山のものをすっ飛ばしているようで。



 でも帷さんの目は真剣そのもの。



 芯を感じさせる揺るぎない瞳。凛とした表情。



キリリ



 こうして間近で見ると、睫毛が長いのと、顔のつくりが整っているのが分かる。



 人生の中で、5段活用以外のことも沢山学んでいくはずなのに。



 まだこれからの長い人生、もっと色々活用して生きていくべきなのに、まだ死ぬのは早いと思うのです、帷さん。



「私はいいとしても、帷さんは死んではいけません!」


「でも一緒に死んで一緒の墓入って一緒に土に返れば、いい作物が沢山育つと思うんだよね。」


「……作物?」


「俺たちの骨が栄養になってさ、いい肥料になると思うんだ。作物だけじゃない。自然だって俺たちの強固な愛の栄養分であふれ返って、動物の命だって沢山育っていく。」


「……」


「そしたら俺たち2人の愛の牧場物語が誕生すると思う。俺はそう思う。」


「な、なるほど…」



 納得できないまま下手な相づちを打ってしまった。



 死んだ後の方が生きている時よりもずっと充実している気がする。さすが、トップの帷さん。(なにがさすがなのか)



 そして次の瞬間、手動のはずのアコーディオンカーテンが自動的に閉まった。



バシャンッ



「……」



 一体、何が起こったのか。



 よく考えたら、ここに来てから私は「一体、何が起こったのか。」と思ってばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る