第29話

今の今まで床で転がっていた人物とは思えないほどの威圧感。



 決して大きいとはいえない背中なのに、溢れ出るオーラで周りを制圧している。



 声だってさっきとはまるで違う、恐怖を頭に響かせるような重低音で。



 これが、流星界のトップの器…。



 彼の後ろにいて、彼の顔は見えていない私ですら、ビクリと身体を強張らせてしまった。



 竜彦さん竜馬さん、菊地さん、関西弁の彼に冷静な彼以外のメンバーが全員、いなくなってしまった。





 そして今、私は工場内にあるシャワー室でシャワーを浴びている。



 小さいけれどバスタブもあるし、綺麗とは言えないけれど、掃除もされていて清潔感は保たれているようだ。



 簡易的なアコーディオンカーテンで区切られた脱衣所の前には、ちゃんと掃除当番表が貼ってある。



「…おい、タオルを置いておくぞ。」



 シャワー室の外から聞こえてきたのは冷静な彼の声だ。



「あ、あの、ありがとうございます。」



 ずっと嫌そうに私を見ていたけれど、なんだかんだ優しい人なのかもしれない。



「服も下着も汚いから洗濯機に入れた。出る時はそのまま裸で出てこい。」


「えっ」


「まだお前の査定が終わったわけじゃない。」


「……」


「因みにあと5分で湯が水に切り替わる。さっさと済ませろ。」


「ええっ!」



 アコーディオンカーテンが閉められる音がして、湯船からそっと立ち上がる。



 少しでも優しいと思っていたのは私の勘違いだったのかも。

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