第27話

突き刺すような視線が、痛い。



 …誰も喋らない。はやし立てる人もいない。



 きっと皆この状況に慣れているのだろう。今までに何人もの女性をここで審査してきて。



 私のような犠牲者が、今まで何人いたのだろうか。



 


 どこから脱げばいいのか、私は意を決してスカートのホックを外した。



 あれ?私、今日のパンツ大丈夫なやつだった?


 ワコールだった?ピーチジョンだった?



 ベージュの下着やカボチャパンツは持っていないはずだから、多分大丈夫。大丈夫じゃなくても、どうせ捨てられるだけだし。




 自分を納得させてからスカートを下げかけた、その時だった。




「待て待てちょと待てちょと待て待って待ってちょっとタンマ!!!発進命令来たよこれ!」


「……は?」


「トヴァ初号機の発進命令がムサトさんから出された!皆、すぐに発進準備だ!!」



 帷さんがスマホをかざし、サイレンのような音を口で鳴らす。



『ウゥ"ウ"~~~~ウゥ"ウ"~~~~~』



 それを見た関西弁の彼がソファの上に立ち、急にペラペラと喋り始める。



「第4次冷却終了、フラグホイール回転停止、接続を解除、補助電圧に問題なし。

停止信号プラグ排出終了、エントリープラグ挿入、脊髄伝導システムを開放。接続準備、接続準備やッ!!!」


「シンクロ率81.3%!!」



 彼らを邪魔する者は誰もいない。菊地さんはぐっすり眠っている。



 そしてソファから軽やかに目の前のテーブルを飛び越え、帷さんが私の前にやって来た。



「行くぞ!零号機の応援もいるんだから!!」


「……え」



 突然話しかけられた弾みで私が目を丸くすると、帷さんが急に膝から崩れ落ちた。



「…くっそ、なんだよその「……え」って。なんだその「え」って顔…!まじしんど!いや顔だけじゃない!髪も!身体も手足も!そしてハイソックス右と左!!」



 悶えるようにコンクリートの床でうずくまる帷さん。



「うあ"~~~~かわいいよ河合かよ尊ひかよ、笑えばいいよ、そうだ笑えばいいと思うんだよ俺!」


「……」



 そして床からそぉっと私を見上げた。



「はぁーーーしんど、しんどいわー。

生の推しは生麦生米生卵よりもずっとずっと美味しそうだよ、お肌が透き通って今すぐ全身ガラス張りに出来そうなくらい透明感あるし全面ガラス張りの風呂作って好きなだけ監視して観察して毎日絵日記つけて先生から花丸もらって祖父母に自慢したいよー。」



 ぎゅうっと力強くゴミ箱を抱きしめて転がる帷さんを、誰一人として止めようとはしない。さっき一緒になって騒いでいた関西弁の彼ですら。

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