第23話

「ほら、前いけ。」



 と、竜馬さんに背中を押されて、よろけながら前に出る。



 周りの視線が鋭く、品定めされているのがよく分かる。



『なんだあの汚い女』


『モニカの代わりになれんの?』


『てか竜彦さんの後ろ乗せてもらうとか図々しい女じゃね?』


『あれはゴミ行き確定だな』



 竜馬さんが事前にスマホで連絡していたのか、皆私が身代わりだという事実を知っているらしい。



 そういえばバイクでここまで乗せてもらって来た時も、周りの人が同じようにざわついていた。



 でも一番よく聞こえてきたのはこの言葉。




『あの女、帷さんに殺される』




 ···私、殺されるの?



 逃げて殺されて、その後はどうなるの?解放される?



 解放されるのなら、私は喜んで彼に殺されようと思う。



 と、再び視線を泳がせながら前を見る。周りのメンバーとは一味違い、帷さんを囲むウノを持つメンバーの視線が、重い。



 半笑いなのに、怒っているようにもみえるのだ。



 彼らがウノを持ったまま、次々と灰皿にタバコの火を押しつけていく。



 それなのに、彼らの重い視線に気を取られるよりも、どうしても帷さんに目がいってしまう。



 あっという間に目が奪われて、動けなくなったかのように身体が硬直してしまった。これがこの流星界のトップに立つ力なのだろうか?



 いや、違う。彼が私を、じっと見つめているのだ。私が視線を左にやれば左に、右にやれば右についてくる。



 反らしたくても、反らせない。



 怖ければ対抗せずに、さっさと反らしてしまえばいいものを。



 でも彼の瞳は、獲物を狙うようなそういったたぐいのものではない。



 くるりと涙液るいえきを輝かせた瞳が、必死に何かの熱量を伝えているかのようで。



 少しだけ下がった様な眉がその証拠。



 なんて、なんてつぶらな瞳···



 クゥ~ン



 捨てられた子犬のような顔で、一切まばたきをしない彼。



 まばたきしないと目が乾くから、と私がまばたきをして見せても、彼は一向にまばたきをしない。

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