第13話
◊
「颯、今月でお前を惟の世話役から外す。」
「......は?」
「惟にはできる限り自分のことは自分でやって貰う。」
「.....では俺は、惟の護衛役に回るのですか?」
「いや、護衛は皐に任せる。」
「.....え?....兄貴が?」
「それと、鑑賞客の案内役もおりて貰う。」
「は?.....では、俺はどうすれば....」
稲沢が深呼吸し、穏やかな表情を落とすと、静かに口の端を上げた。
「.....颯、お前には見合いをして貰う。」
「み、見合い?!ですか...??」
「財閥のお嬢さんだ。お前は今証券会社の社長候補に名が上がっている。」
「なっ!」
「.....これが、最後の俺の我が儘だと思って受けて欲しい。」
「.........」
目頭を熱くする稲沢を見て、颯は言葉を失くした。稲沢の決死の我が儘なのだと悟るには十分すぎる表情だった。
.....もしかしたら、もしかしたら、
惟の花嫁修業は自分と結婚するためのものではないのだろうか、という可能性の欠片が砕け散る。
自分だけカタギの世界で自由を手に入れ、惟はこの先どうなるのか────。
稲沢の部屋を出ると皐が廊下の端で待っていた。
「.....颯、
「......はい。」
「お前は、誰よりもオヤジに大事にされている。.....どうかオヤジの我が儘を呑んでやって欲しい。」
「.....惟は、....惟はどうなるんですか...?」
颯は唇を震わせ皐に聞いた。
拳を握り締め眉根を寄せる颯の姿が沈黙を作ると、皐が意を決し固い口を開いた。
「.....今、俺と惟さんの事実婚の話が上がってる。」
「...........」
「颯、惟さんは俺が必ず幸せにするから......だから、安心しろ───。」
あゝ、悪い予感ほど的中する。
颯は思った。
幸せになれるはずがないと───。
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