第11話

「....こんな姿でも、妹だって思える?」


「......惟さん、むやみやたら男に肌を見せるもんじゃない。」



 その会話から浮かび上がる2人の姿。


 颯は殺したはずの息を呑み込んだ。



「.....やっぱり私ってさ、人として見られてないんだね...。」


「それは違うな.....女として見られてないってだけで。」


「ひっど!!なにそれなにそれー!!皐さん今の発言切腹もんよ?!」


「切腹って時代錯誤か。」



 楽しそうな皐の笑い声。普段の威厳を保つ若頭の姿からは想像出来ないものだった。



 皐は颯を弟のように可愛いがっていたが、颯は皐を兄のようには慕えなかった。


 皐の背中には真正面から威嚇する昇り龍が描かれている。


 闇夜に落とされた稲光りにより浮かび上がるコントラスト。それは腕から腰下にまで彫られ、痛みに耐え抜いた証が、若頭の地位を十二分に表していた。


 しかもその刺青は吟鳴によるもので、稲沢から刺青を阻まれた颯は、皐に引け目を感じていたのだ。



「もういいわよ!皐さんどーせ色んな女相手してるから麻痺してんのよ!」


「はは、何それ。嫉妬?」



 皐の声を最後に、そこから数秒.....間が空いた。


 見なくても襖の向こうから伝わる2人の温度。颯の冷えた手から汗が滲み出る。



「っ、」


「......これでも惟さんを襲わないよう自制してんです。あんま俺を苛めないで?」



 柔らかい皐の声。惟を懐柔するような大人の言葉。



「.....皐さんっ、もっと、キスして?」


「惟さん、だからそういうのが........

ったく、仕方無えな───」



 波打つ鼓動が足を伝う。


 颯は断腸の思いでその場を離れた。



 惟に求められるのは自分だけだと思っていた。何度最後まで抱きそうになったことか、必死に自分を抑えてきたのに───。


 惟を大切にしたいとずっと抱かずにいた。

惟自身を傷つけたくないと。

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