第6話

「ぁ.....颯·····もっと指、うごかして....。」


「······はい。」


「あ、颯っッ、二本にして....んぁっ」


「はい───。」



 天井の豹に観られながら、颯の冷えた指で絶頂を迎え、惟は恍惚の表情を残し、呼吸を整えた。



「.....颯、私のこと、好き?」


「はい。勿論。」


「じゃあ、.....私を抱いて。」


「...それは、出来ません。"決まり"ですから。」


「....好きな女が、乱れてんのよ?」


「......」


「はっ....あんたが私を好きじゃないことくらい分かってんのよ...。あんたは私の背中に恋してるだけだもんね。」


「いえ、そんなことは、」


「だったら抱きなさい。私を愛してるなら抱きたいと思うはずよ。」



 はだけた襦袢から太ももを晒し、颯を誘う惟。


 ...しかし颯はそこから視線を反らすように畳の目を見つめた。



「....申し訳ありません。"決まり"を破ることは出来ません。」


「やっぱりね~。あんたは父さんの作品に惚れてるに過ぎないのよ。なんせ私は国の重要文化財だからね。」



 彫師である吟鳴ぎんめいは"人間国宝"として指定されていたが、惟は"人間国宝"ではなく"重要文化財"として指定されていた。


 つまり惟そのものが美術品として認識されており、彼女には人権など与えられていないようなものだった。 


 結婚は愚か、恋愛すら満足には許されず、性交などはもっての他。背中に描かれた作品が傷つけられる可能性がある行為は全て禁じられていた。



 惟の健康状態を保つため、毎日専属の料理人が作るものしか食べられず、背中に負担がかからないようにと決まったベッドで一人きりで眠らなければならない。


 時間も、場所も、着る服までもが決められたものしか許されず、惟には何一つ自由が与えられていなかった。



 それでも惟が生きていけるのは、彼女の専属の世話係であるはやてがいたから。

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