第52話

そして私ができれば"配架目録"まで作りたいと散々皆に(さりげなく)伝えていた希望も、達筆な従者さんが引き受けてくれることになった。宮廷では書類の雛型を作るのが主な仕事だとか。



 500万冊の目録を作るのと、淇帒国の貿易商が言語辞典を作る、どちらが早いかといったところだ。


 それでも従者さんは、「塵も積もればなんとやら。少しずつやっていきますよ」と快く承諾してくれた。



 思えばこの宮廷の人たちは、私に対して皆優しい。得体の知れない小娘にも「瀬里様」と敬称をつけて呼んでくれるし、来た当初から何かと気にかけてくれている。やっぱり派遣されたのがこの国で本当に良かった。




 書庫整理の休憩中、中庭で茶葉のお世話をしている瑞凪様に声をかけると、一緒に縁側でお茶を飲もうと誘ってくれた。



「あ、なんかこのお茶、いつもより少し甘い気がする!」


「···実は、少し品種改良したのだ。味の感想が聞けてよかった。」



 瑞凪様、いっそのこと茶葉職人にでもなって、茶屋を経営すればいいのに。そういって中庭に目を向ければ、宮廷を縮小したお陰で広くなっており、茶畑も前より広大になっている。



「···ところで、あなたは元の世界に、結婚を約束している男はいるのか?」



 あまりに突拍子もないことを聞かれ、私はお茶を吹き出した。



「何その今さらな質問!いたらこんなに悠長にしてないよ!」


「···そうか。···例えば、元の世界に何か心残りなどはあるのか?」


「心残り?まあ、あるとすれば、図書館の中国古書の整理かなあ。」


「···いや、そういうのではなくて、」



 瑞凪様がチラリとわざとらしく、縁側が続く廊下の向こうに目をやる。何かあるのかと思い、私も同じように見ると、柱に隠れている智彗様の姿があった。



「あ、智彗様も一緒にお茶しよう!」


「あっえっ!そ、そうですね!!い、いただきますっ!!」



 湯飲みにお茶を注いでいると、瑞凪様がボソボソと何かを一人で話し始めた。



「···気になることは私を通さず、本人に、直接聞くべきだ。」

「ちょっ!なななな何意味のわからないことを!///」

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