第51話

次の日、私は智彗様に教えてもらい、"書物の補修方法"が書かれている本をかき集めていた。


 紙すき職人を父親に持つという侍女さんが、書物の補修係として名乗り出てくれたのだ。いつだったか、広間の障子を張り替えていた侍女さんだ。



 和装本の背表紙に和紙を張る作業は、私も空いている時間に侍女さんたちに加わり、順調に進めている。文字は書けなくても張るだけなら私にだってできる。



 因みに本はほとんど棚に収まった。500万冊もある本を、よく全部棚に配架できたなと、自分でも信じられない気持ちでいっぱいだ。


 書庫を見渡せば感慨深いものがあって、「私、凄い」と何度も自分で自分を褒めた。



 禁書だけはまだ手がつけられていない状態で、景郷国の兵士たちが帰ってから考えようということになった。




 そして、宮廷の縮小作業も書庫の配置換えも終わり、景郷国の兵士たちがついにここから引き上げる日。



「いやあ瀬里殿には随分とこきを使われたようで、うちには何の益にもならない恩恵を受けたこと、決して忘れないで下さいねえ。」



 金属と兵士をここから引き上げさせるため、志成さんがわざわざ宮廷に来ていたのだ。



「でも思っていた以上に金属が出てきたんです!ほら見て下さい志成さん!これ後宮の屋根についていた金の鹿です!かなり重いので気を付けてくださいね!」


「···なぜ鹿なんだ。」

 


 それは、馬の様にヒヒーンと両足をあげている姿の鹿で、2体ある。本物の鹿の原寸大で作ったらしいので、荷馬車に鹿がかさばることになるのだ。むしろその鹿に乗って帰ればいい。



「それよりも瀬里殿、宰相のあなたには書物の整理よりもやるべき仕事があるのではないですか?」


「え?何ですか?」


「皇帝陛下の正室や側室探しですよ。世継ぎがいないんじゃあ、どれだけ繁栄させたとしても意味がありませんからねえ。」



 そういえば第三皇太子である俊恵さんでも、側室だけで50人はいると言っていたし、本来それだけの奥さんと子供が皇族には必要なのかもしれない。



 いや、私は本の整理と繁栄させるのが目的で呼ばれただけで、智彗様の奥さん探しをするほどお節介な人間ではない。


 それに智彗様にだって好みというものがあるだろう。俊恵さんのように誰でもいいというわけではないはず。



 志成さんと景郷国の兵士たちのお見送りをし終えると、真っ先に執務室に戻って行った智彗様。きっと少しずつ国が潤ってきたお陰で仕事が忙しいのだろう。



「瑞凪!!なんと亜怜音の書物に1冊だけ、この大陸の言語訳が載っている書物があったのですよ!!」


「···な、なんだって!」



 全然違った。やっぱり智彗様は、奥さんよりも書物のようだ。

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