第41話

「これは幌天安の問題だから大丈夫!でもありがとう!」と返しておくと、洹牙さん「あっそ」と素っ気ない返事をして帰って行った。


 そういえば彼の傷跡が前回見た時よりも薄くなっていた気がする。塗り薬を使ってくれたのだろうか?




 淇帒国から返ってきた文には、ぜひ話し合いの席をお願いしたいというもので、3日後の午の刻に、この宮廷で話し合いが行われることとなった。



 淇帒国の情報をまとめた上で、例の如く3人での事前準備が始まった。



「もうこの国に淇帒国の欲しがるようなものは残されていないはずなのに、友好国を結んで何がしたいんだろう?」


「···探るよりも、商売に慣れている国に対し、どう対応するかが鍵だ。」



 執務室の円卓に、瑞凪様があるジャンルの書物を何冊か置いた。



「これは、"心理学"の書···。ああ!もしかして心理戦ですか?!」


「···ああ、少しは役に立つかと思って、持ってきた。」



 中には交渉術に関して記されているものもあり、智彗様によれば、"こちらが望むものを明確にしておくことが重要"と書かれているそうだ。そして相手から言葉を引き出すための"はったりをきかせること"も大事らしい。



 のほほんとした智彗様が、はったりをきかせている姿なんて全く想像できない。



 しかし最終的には、前回と変わらず、"うちには何もございません"アピールは忘れずにしていこうということで事前の話し合いは落ち着いた。




 そしてついに、淇帒国への復讐が始まる。




 話し合いの日の午の刻、お昼に近い時間。馬車1台と兵士を乗せた2頭の馬を引きつれ、宮廷にやって来た淇帒国一行。馬車には3人の男が乗っていた。



 1人は宰相で、他の2人は役人だと瑞凪様が小声で教えてくれた。



 さて、宰相と聞いて、すぐに志成さんを例に出すのは私の悪い癖だが、淇帒国の宰相は志成さんのようなオジサンではなかった。


 もっとでっぷりと太った派手なオジサンを予想していたが、見事に外れた。当たっているのは流暢な喋り方のみ。



「これはこれは!皆様お出迎え頂きありがとうございます!僕は淇帒国宰相の茂倫モリンと申します!あっ、と瑞凪様には以前にもお会いしてましたっけ?ははっ、いやいや皆様どうぞよろしくお見知りおきを!」



 はあ?!"お会いしてましたっけ?"って昔鉱山奪いに来た癖に何言ってるの?!!白々しすぎるっ!


 私がイラっとしたのがわかったのか、智彗様と瑞凪様が揃って私を一瞥する。



 茂倫さんは前髪を横に流した短い黒髪の、目も身体も細い男だった。


 いかにも商売好き!という顔をしているが、年は魯源さんと同じくらいだろうか?濃い紫の、袖の長い装束を纏っている。

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