第40話

でも2人はすでに、淇帒国よりも亜怜音大陸の話ばかりに花を咲かせていた。


 「亜怜音には書物の作りも芸術に富んでいるらしい」だの「動物と人間の融合にまつわる書があるらしい」だの、目の前の問題がどこかへ飛んで行ってしまったようだ。



 とりあえず淇帒国には、後日話合いを提案する文を送ることになった。




 まずは、淇帒国の情報を集めようと、私は修繕作業中の景郷国の兵士たちに聞いてみることにした。



「淇帒国といえば、ちょっと前から武器の製造が盛んになってきたって話を聞くよなあ。」


「ああ、特に戦を好む国じゃないが、積極的に武器の売り込みをして稼いでるとか。ある意味、戦を促してるようなもんだよなあ。」



 戦をするわけではないのに、武器だけ売るというのが淇帒国のやり方だ、と教えてもらった。瑞凪様の言っていた、"やり方が綺麗じゃない"というのは、これにも当てはまるのかもしれない。




 万能薬を取りに来た、剱東溟の洹牙さんにも聞いてみると、以前、剱東溟にある鉱山を見学に来たことがあるのだとか。



「ずっと前だけど、うちの武器の購入を検討してるとか言って、鉱山を見学しに来たことがあんだよ。鉄鉱石の採掘方法や、武器の製造方法を散々聞きまくって帰って行ってさ。でも今思えば、単にうちの技術を盗みに来ただけだったんだろうな。」



 剱東溟の鉱山を見学した直後に、淇帒国は幌天安の鉱山を手に入れた。洹牙さんの言う通り、最初から幌天安の鉱山を見越した上で、剱東溟に武器製造の技術を学びに行ったのかもしれない。



「武器みたいな高価なもんを売り込むことに慣れてる国は、当然交渉術にも長けている。お前らが太刀打ちできるような相手じゃないだろう。」



 宮廷前の広場で、洹牙さんが万能薬の籠を馬車に運びながら私に言った。



「でもとりあえず話も聞かずに断るのも怖いしさ。なんとか頑張ってみるよ。教えてくれてありがとう。」



 私は情報をくれたお礼に、洹牙さんにまた自作の塗り薬を渡した。洹牙さんがそれを受け取ると、軽く咳払いをする。



「···何なら、俺がその話合いの場にいてやってもいいけど?」


「は?」


「···変な交渉持ちかけられた時の対策としてさ、お前らだけじゃ不安だから?俺が"最後の砦"になってやってもいいんだけど??」



 いやいや、何で他国の騎士団長がうちの話合いの場に??


 洹牙さんは心配して言ってくれたのかもしれないが、いつ戦に借り出されるかもわからない騎士団長さんに助けてもらうのは、さすがに悪い。


 いくら図々しい私でも、そこはちゃんと弁えているつもりだ!

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