第33話

「で?出迎えでもねーなら何でこんなとこにいんだよ。」


「あ、洹牙さんに渡したい物があるの。」



 私は持っていたハマグリの塗り薬を差し出した。



「は??何だよこれ?」


「これ、万能薬で作った塗り薬。洹牙さん傷だらけだから、それあげるよ。」


「は、はあああ?!お、お前、これ作ったのかよ?!」



 剱東溟では今薬草を栽培中で、採取できるまでにあと数か月かかるらしい。いつ戦に借り出されるかわからない洹牙さんには、早めに渡しておいた方がいいと思ったのだ。



「えへへ、作っちゃった☆」


「作っちゃった☆じゃねえよ!魯源さんの案をそのまま盗むな!」



 馬車から私を、信じられないという顔で見つめる洹牙さん。でもそれはすぐに深い溜息に変わった。



「しかも包み隠さず俺に渡すって、お前ちゃっかりしてる癖にアホだよなあ。」


「一言余計だよ。」



 洹牙さんがハマグリの蓋を取り、「毒じゃねえだろうな」と失礼なことを呟いたので、私はすかさず彼の足をつねってやった。「地味な攻撃すんな!」と怒る彼が、すぐにハマグリの中身を見て、不思議な顔をする。



「おい、なんか普通の軟膏よりもドロッとしてねえかこれ?やっぱ毒なんじゃねえの?」


「あ、さすが洹牙さん!塗り薬ってどうしても乾燥しがちなものが多いでしょ?だから乾燥を防ぐために、ちょっとね。」



 この塗り薬は、最初万能薬の粉と蜜蝋みつろう(ミツバチの巣の主成分)を混ぜたものからできていたが、それだけでは乾燥しやすく、皮膚に塗ればカピカピな状態になってしまう。



 智彗様に聞いたところ、保湿として油を混ぜるといいと文献に書いてあったそうで、私は菜種なたねから取れた油を少量加えたのだ。



「へえ?で、何だよそれ?何を混ぜたんだよ??」


「あ、そこは企業秘密で。」


「はあああ?!!ずりぃぞお前っ!!」



 とにかく使ってみて、もし良ければ、また交渉の席でも個人的にでも話合いましょ!と洹牙さんに伝えておいた。



 それからぶつくさ文句を言いながら門の中へと入って行った洹牙さんは、宇汾さんと万能薬の入った籠を馬車に運び込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る