6.色々地味だけど平和です

第32話

「あー!やっと勾玉に色がついてきた!!」



 この世界に来て、どれだけの日が過ぎただろう。



 中庭で、勾玉を朝空に向けてかざすと、青い、いやそれよりももっと薄い色が下の方から色づいてきているのがわかった。晴れた空と同じ色だ。



「ってことはきっと、智彗様の勾玉も色づいてきたってことだよね♪」



 交渉の席にまで出て、私は一体何をやっているのかと思うこともあったが、この勾玉を見てようやく安心できた。


 少し寂しい気もするけれど、私には、地下の書庫で私の帰りを心待ちにしている中国古書の整理が待っているのだ!




 宇汾さんの万能薬が爆発的に売れたのをきっかけに、宇汾さんと奥さんは、村から王都に移り住むことになった。



 魯源さんは交渉の席で、薬草を使用し、滋養剤や塗り薬といった違う薬も派生させていきたいと言っていた。それを宇汾さんに伝えると、彼はそれを王都の診療所と協力して作れば、新たな薬が沢山作れるかもしれないと考えたのだ。


 相手の思惑をそのまま利用させてもらう、なんとも姑息なやり方だ。



 因みに塗り薬はすぐに作れた。私も書庫での作業中、何度か本の角で手を擦ってしまい、特別に宇汾さんから分けてもらった。ハマグりくらいの、大きめの貝殻に入った可愛い塗り薬だ。



 宇汾さんの万能薬が、しばらく剱東溟に輸送されることになったが、幌天安に輸送馬車が来るのは2週に1度のペース。



 一度初めて輸送馬車が来た時は、なぜか御者として洹牙さんが乗っており、私に嫌味の一つを言って帰って行った。



 因みに今日がその2週間後で、私は宇汾さんからもらったハマグリの塗り薬を手に、宮廷の門の前で待っていた。



「おいおい、宰相さんがお出迎えとは、随分と人員不足なんだなあ。」



 洹牙さんが、馬の手綱を引くと、馬車が門の前で停止した。



「お出迎えじゃないって。ちょっと自意識過剰なんじゃない?」


「うっせーな。」



 そっちこそ、一国の騎士団長様がこんな小国まで輸送のために来るなんて、人手不足なんじゃないかと思う。



「てか何でわざわざ宮廷まで万能薬を取りに来るの?検問所で受け渡しした方が効率的じゃない。」


「魯源さんの命令なんだよ。ちゃんと皇族様への礼儀を忘れるなってな。」



 それは智彗様たちとの繋がりを大事にしておきたいということだろうか?剱東溟の皇帝さんが粋凪様との婚約を本気で考えているということだろうか?

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