第31話

「書物が財産とは、なんと謙虚で感慨深い!


栽培方法を教えて頂けてこちらは満足です。ただ、薬草の栽培がすぐに上手くいくとも限りませんので、しばらくは万能薬を購入させて頂いてもよろしいですか?」


「···え、薬草ではなく、万能薬でよろしいのですか?」


「ええ。宇汾さんの万能薬はとても評判ですから。」



 できれば栽培方法を教えた見返りをもっと分捕りたいと思っていた私だが、今回は智彗様を立てないといけない。何せ彼の優しい想いが込められた交渉なのだから。



 智彗様を見ていると、いつかこの世界全体にも平和が訪れるんじゃないかと思えてくる。




「で?見返りにうちの兵も常駐させてやってもいいって話はどうするよ?」


「また新たに剱東溟の兵を配備したってバレると、各国に幌天安は好戦的だと思われちゃうかも。だからいらない、ってことでいいですよね?」



 瑞凪様と智彗様を交互に見やると、2人は同意してくれた。でもどこか腑に落ちない様子の洹牙さんは、私をじっと見て首を傾げる。



 この人さっきから何なんだ···。



「景郷国の宰相から、幌天安の女宰相は偏屈物の曲者だって聞いてたけど、そうでもなかったな、魯源さん。」


「は、はああ?!!」


「幌天安の女宰相はまず第一に金、そして次に兵力を欲しがるから、まずは兵力から差し出していった方がいいって教えてもらったんだよ。」



 机にゴンッと額をぶつける私。


 志成さん···そういう身も蓋もない噂は流さないでくれませんか?いや身も蓋もない訳じゃないけど(ほぼ事実だから)。これじゃあ幌天安超チョロいって噂よりも、幌天安の宰相超厄介って噂が広まってしまう!



その後すぐに旅から帰って来た宇汾さんは、見た目がかなり派手になっていた。「無駄遣いして!」と奥さんにこっぴどく怒られたらしい。



 そして、それから数年は、魯源さんの計らいで、宇汾さんの万能薬が剱東溟に輸送されることになった。




 交渉の後日、智彗様当てに文が送られてきた。


 送り主はなんと剱東溟の皇帝陛下からで、内容は『魯源から、弟君である粋凪殿は大層立派な人物だと聞いた。ぜひ粋凪殿の婚約者に我が孫娘(10歳)をお願いしたい。』というもので、私と瑞凪様はしばらく笑いが治まらなかった。



 そんな私たちを見て、智彗様はプンプンという効果音をつけ、しばらくふてくされていた。当然彼が婚約の申し出を断ったのは言うまでもない。

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