第30話

「お待たせしました!こちらの施設栽培の書に記されていました!」



 それきっとハウス栽培のことだ!


 この世界にもそういう知識があるのかと感心してしまう。いや、それよりもこの国の勇者である私には、やらなければならないことがある。



「す、粋凪様、さすがにそこまで教えちゃうと、宇汾さんの万能薬が売れなくなっちゃうんじゃ···。」



 小声で伝えれば、「そうですね」とわかっているように私に笑いかけた智彗様。




「でも、怪我や病気においては致し方ないと思うんです。ましてや戦で傷ついた人々を放っておくことは、私にはできませんから。」



 智彗様の本心がみえたところで、魯源さんが「なんと立派な」、と感嘆の声を漏らした。なんとも優しい、智彗様らしい考え方だ。



「施設といっても陽の光が当たる、屋根のない吹き抜けの場所でないと薬草は育ちません。施設はあくまでも風よけだと思って下さい。」



 魯源さんも洹牙さんも、食い入るように本を見つめて、「なるほど、これなら出来るかもしれない」と巻物にメモを取っている。



「おい、この書物はいくらだよ?書き写すよりもこのまま買った方が楽だ。」

 


 この世界にコピー機なんかは当然なく、自分たちで書き写すのが当たり前だ。因みに書庫にある和装本の中には、なんと智彗様や瑞凪様が書き写した写物(複製本)もあるらしい。



 智彗様のことだから、どうせ無料であげちゃったりするんだろうな、と思っていると、



「あ···あの、申し訳ありません。書物はこの宮廷の、いえ幌天安の大事な財産ですので、お売りすることはできないんですよ···。」



 私がその言葉に驚いていると、瑞凪様も賛同するように「確かに」と呟いた。そんな2人に魯源さんは優しい笑みを浮かべた。

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