第27話

私たちも挨拶を済ませると、絶対に不審がられると思っていた子供の智彗様(この場では瑞凪様の弟という設定の粋凪スイナ)には特に異論はないようで、問題があるのは私の方だった。



 騎士団長の洹牙さんが、私を見るなり、「こんな小娘が宰相とか大丈夫かよ」と嫌味を言ってきた。



「洹牙!いい加減にしろ!!」



 魯源さんがすかさず洹牙さんの頭を叩き、渇いたいい音が宮廷前の広間に鳴り響く。


 なんか魯源さんて洹牙さんの保護者みたいだな~と微笑ましく見ていると、智彗様が私のフォローをしてくれた。



「彼女は若いですが、とても頼りがいのある女性なんです!」



 でも智彗様が一歩前に出ようとした時、勢い余って私の足につまずき転びそうになってしまった。


 すぐに私が後ろから脇の下に手を入れて、智彗様を支える。



「ははは、確かに瀬里殿は頼もしい存在だ!」



 笑う魯源さんの隣で、溜息をつき私たちから顔を反らす洹牙さん。



 保護者は私も同じだった。





「···景郷国の兵士がこの国に配備されてるってのは本当だったんだな。」 



 部屋の席に着くなり、洹牙さんが一番気になっていたらしいことを呟くと、瑞凪様がそれに応じる。



「···ええ、ですが今彼らには、この宮廷の修繕をお願いしていまして、」


「は?他国の兵士に何させてんだよ??」



 私が「へへへ」と頭を掻いて見せると、洹牙さんが「なぜお前が笑う?」とゴミのような目で私を睨んだ。

 


「···では、早速ですが、今回来訪された理由を伺ってもいいですか?」


「はい。実は、万能薬の原料である薬草がこの国にあると聞きまして、」


「···は?···万能薬?」


「ええ、旅商人をされている宇汾さんという方から伺ったのですが、何でもこちらの国の西の村に沢山生えているとか。」



 まさかの言葉に呆気に取られる私と智彗様。


 うちに戦力はないにしろ、もっとこう、新たな危機に瀕するような話を持ちかけられると思っていたから拍子抜けだ。



「···確かに。宇汾は幌天安の西の村の男で、今は商人として他国を練り歩いています。」


「やはり。その宇汾さんから万能薬を買った我が国の兵士が、風邪によく効くと噂を広めまして、」


「···はあ。」


「試しに他の兵士や民が購入したところ、その噂は本当だったようで、彼の作る万能薬は今大繁盛しているのですよ。」



 ···え?本当に??


 にわかには信じがたいが、魯源さんが懐から布の包みを取り出し、それを開くと、中から小分けにされたいくつかの包み紙が現れた。



「あ、確かに、その黄土色の半紙は宇汾さんの万能薬の包み紙です!」



 智彗様が"半紙"と言った紙は、習字の紙のように普通のものよりも薄い。

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