第21話

「この国は聞いていたよりも、ずっと優秀な交渉人がいるんだね?志成、僕たちが甘くみてかかったのが間違いだよ。」


「しゅ、俊恵様っ、」


「瀬里、君の言う通りにしよう。舐めてかかったのがバレバレだよね。皆、ごめんね?」



 軽い謝罪ながらも、俊恵さんが机から肘を離し、姿勢を正して言った。



「あ、ありがとうございます!」


 

 智彗様に後からちゃんと謝らないと。



 でもこの時私の中では、これで和装本を綺麗に並べられるかもしれない!と躍起になっていた。



 宮廷の屋根に使われている補強板の鉄鋼で、ブックエンドが作れるかもしれないからだ。


 ブックエンドとは、本が倒れないように立てておくためのL字型の道具で、鉄を曲げただけの簡易的なものだ。


 それさえ大量にあれば、柔らかい和装本でも、ブックエンドが壁になってくれて縦に並べられるはず。


 技術なんかなくても作れるはずだし、あわよくば補繕ついでにブックエンドを作ってもらえるかもしれない!



 私が薄気味悪い笑顔を浮かべていたのか、志成さんが私の顔を見て眉をひきつらせていた。



「···で、ではこの合意書にサインを。」



 未だ不服そうな志成さんが、お互いの条件を呑むという2組の巻物の合意書を、瑞凪様と俊恵さんに差し出す。


 両者のサインが入ったところで、幌天安と景郷国の友好関係が認められた。




「瑞凪様、私、なんか凄いことしちゃったかもなんだけど、大丈夫だった···?」


「···私はあなたの意見に賛成だ。しかも金貨200枚ももらえるのであれば、多少の危険に脅かされることも致し方ない。」


「ほんと?!良かったあ~。」


「···しかし、兄さんは納得していないようだな···。」




 智彗様が、宮廷の前で俊恵さんたちのお見送りをする私たちの一歩後ろに立つ。正直どう声をかけていいかわからない。



 私が智彗様を気にしていると、俊恵さんが声をかけてきた。



「実は今僕は、父上の命で婚約者候補を探していてね、自分の目で確かめたいからこうして交渉なんかがある時に他国に赴いてるんだ。」


「は、はあ?」


「君の出身はどこ?皇族ではなくとも、宰相であればそれなりの貴族だよね?」


「え、ええと···」

 


 私が返答に困っていると、後ろから可愛い声の助け船が入った。



「彼女は今宰相の役職に就いていますが、元は私の···世話役だったんです。」


「へえ?」



 今までずっと黙っていた智彗様が、なぜかここにきて初めて喋り始める。私は瑞凪様と顔を見合わせた。

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