第16話

「交渉の場を設けたいと言ってきたのです。」


「え?交渉?!」



 出た!またきっと相手にとって都合の良い話ばかりを持ち掛けられるやつだ!



「10日後の巳の刻、ここに赴きたいと書かれています。」


「ねえ、その交渉には誰が応じるの?まさか、智彗様と瑞凪様だけってことはないよね??」


「···本来、宮廷には"宰相さいしょう"と呼ばれる交渉役の役職があるのですが···」



 智彗様がそっと見つめるその先には、白く長い髭を垂らし、腰を曲げヨタヨタと杖をついたお爺さんの姿があった。



「その、うちの宰相は交渉ができる状態ではなくて。。」



 ···え?つまり、高齢化ってこと?!


 宮廷専属医といい、優秀な人材も不足、それでいて財政難。


 改めて私、とんでもない現状の世界に派遣されちゃったんだと実感する···。本当に図書館だけで財政難の危機を乗り越えられるのだろうか。



 でも勇者として派遣されたのなら、本の整理以外にも私にできることをやっていかないと!



「智彗様!その交渉、私も同席させてほしい!」


「···やっぱり、ですよね。」



 私が同席したいと言うのをわかっていたかのようなその反応。


 すると、いつの間にか私たちの話を後ろで聞いていた瑞凪様が、「···ほらな」と智彗様に向かって囁いた。



「いえ、私もこんな子供の見た目ですし、不利な状況にならないためにも、むしろ瀬里には同席をお願いしたいと瑞凪は言っていたのですが、その···他国から来訪する人物に少々問題がありまして···。」


「問題?」


「···兄さん、彼女に変な先入観を与えないほうがいい。交渉前に、悩ませてしまうやもしれない。」



 智彗様の言葉を瑞凪様が遮ると、そのまま朝食の時間となり、人物についての"問題"はうやむやにされてしまった。




 それから本の整理が滞りなく行われていき、私もしばらくは書庫ばかりに気を取られることとなる。



 そろそろ書庫の配置図を考えていかなきゃな···。


 

 本来、柔らかい素材に背表紙のない和装本は"横"に並べられる。”横"というのは、コンビニに置かれている雑誌のように、表紙を真正面に向けた並べ方だ。


 大量にある和装本を全て横向きに並べるのは相当な場所と棚が必要だし、棚の数が多ければ探すのも手間となる。


 かといって和装本を1冊ずつ製本していくにも相当な時間がかかる。この和装本の扱いが一番の問題だ。




 そして交渉の日が近付く中、智彗様と瑞凪様と3人での事前の話合いが行われた。


 交渉相手は景郷国けいごうこくという、ここから北東に位置する国で、戦には意欲的、資源の確保も十分に事足りている大国。その景郷国がなぜ小国に交渉を求めてきたのか···。



 平和的に終わらせることが最優先なのはもちろんのこと、不利な交渉を持ちかけられないよう、この幌天安に資源はもう残されていないことを存分にアピールしていこうということで片が付いた。



 皇族でも驚くほどに見栄もプライドもない。

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