第17話
その日の巳の刻、従者より国境を越えたという報せを受けた私たちは、景郷国から来る予定の第三皇太子と宰相、そしてその護衛騎士たちを宮廷の前で待っていた。
きっとこの国の現状を見た護衛騎士たちは、「俺たち、必要なくない?」と思うに違いない。
「智彗様、わざわざ皇太子が他国まで交渉に来るってよくあることなの?」
「···第三継承位とはいえ、皇太子殿下が小国に自ら足を運ぶというのはとても珍しい事です。
瀬里、何と言いますか、その、皇太子殿下とは出来る限り距離を取って、」
「智彗様ー!瑞凪様ー!!景郷国より皇太子殿下御一行がおいでになられましたー!!」
智彗様の言葉を遮るようにして、1人の従者が両手を振り、私たちの方に駆けて来た。
そして大きな両開きの門がゆっくり開かれると、想像以上の御一行様の姿が現れた。
馬の数もさることながら、騎士の人数だけでも約20、30···いや前方後方合わせて50人はいるだろう。その真ん中には、2頭の馬に引かせた真っ黒な馬車がある。
···もしかして、戦でも仕掛けに来た?!?
今までこの国は平和だからと、のほほんと過ごしてきてしまったが、ここにきて初めて緊張感が走った。
顔が引きつっていたのか、私の緊張を察した智彗様が、ぎゅっと私の手を握る。ふと智彗様を見下ろすと、いつものフワリとした笑顔で「大丈夫ですよ」と囁いた。
いつもだったらキュンとするはずなのに、なぜかドキリとしてしまった私。
馬車の側にいた騎士が私たちに近付くと、瑞凪様が一歩前に出る。
「私は景郷国の騎士隊長、
「···いえ、私は幌天安皇帝の弟、凌瑞凪と申します。失礼ながら、本日は私と私の弟、···
"粋凪"とは、智彗様の偽名。···というか、見た目が10歳くらいの子供が、交渉に同席するなんて絶対に不審がられる。
思った通り、騎士隊長さんは智彗様をじっと見て眉をひそめた。
が、すぐに小さな智彗様よりも、興味を引かせるものがいたことを知ることになる。
「宰相が女性とは、思いもよらない出会いが生まれてしまったね。」
騎士たちが一斉に馬車の扉の前に整列すると、馬車の中からは2人の男が出てきた。
初めに出てきた金髪の男が、なぜだか迷わず私の元にやってくると、私の手を取り、綺麗なお辞儀をした。
「初めまして瀬里さん。僕は景郷国 第三皇太子、
「え?あ、あなたが皇太子様?」
そのどこか色気を放つ、ちょっと砕けた話し方のイケメン皇太子は、智彗様と瑞凪様には目もくれず、私ばかりを一点に見つめている。
「親しみを込めて俊恵って呼んでくれていいよ?僕も君の事、瀬里って呼ばせてもらうからさ。」
俊恵さんが私の手の甲にキスをすると、私は赤くなるよりもポカンと呆気にとられてしまった。
でも未だ反対の手を握っている智彗様が、その握る手にぎゅっと力を込めると、俊恵さんに「こんにちはー、ようこそー」と子供らしい棒読みの挨拶をした。
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