4.あなたたちにプライドはないんですか

第15話

幌天安に来て3日が経った。



 知の聖地開設計画は着々と進められている。


 ···といっても500万冊もの本をジャンル分けするのは予想以上に大変なもので、まだ10分の1も終わっていない状態だ。



 私は一体いつになったら帰れるのだろう?




 智彗様に遠慮なく使ってほしいと言われた部屋は、無駄にだだっ広く、家具が少ないのもあってか妙な寂しさを感じる。


 うちの実家はマンションで、家族4人で暮らせる3LDKだったが、恐らく同じくらいの広さだ。



 着替えも何着か貸してもらい、最初智彗様は煌びやかで、日本の十二単じゅうにひとえのような何枚も重ねて着なければならないものばかりを渡してきた。


 でも私は本の整理をしたいから、もっと身軽に動ける衣装がいいと言ったら、瑞凪様が身幅にゆとりのあるチャイナドレスに、下は広がりの少ない袴のズボンを持ってきてくれた。


 チャイナドレスは図書館のエプロンと同じ紺色で、下の袴は生成きなり。私が着ていたものと代わり映えはしないが、むしろそれが落ち着く。



 朝、朝食前に書庫の棚を掃除でもしに行こうと部屋から出ると、廊下では侍女さんが、広間の扉の障子を貼り替えていた。



「おはようございます!あなた一人でこの障子を全部張り替えるんですか??」


「あ、瀬里様、おはようございます。ええ、今日はこの廊下の障子を全て張り替える予定です。」



 この扉の障子を張り替えるだけでも一苦労だろうに、この廊下全部って···。



 この宮廷はとんでもなく広大で、昔7万人収容するドームに野球観戦に行ったことがあるが、私が見る限り、そのドーム一つ分の面積に匹敵する。


 それが今や100人しか住人がいないのだから、無駄に迷子になるし移動するだけで必死。いい運動にはなるかもしれないが、もう少し縮小すればいいのにと思う。



 私が廊下から、瑞凪様が育てている小さな茶葉畑のある庭園に目を向けていると、侍女さんが「ああ、屋根も錆だらけですね。雨漏りの箇所も増えてきたし。」と溜息を漏らした。


 侍女さんの話によれば、この屋根の瓦には金属が、瓦の下の補強板には鉄鋼が使われているという。宮廷を建て替える費用はないにしろ、補修する費用ぐらい積み立てておくべきだろう。



 侍女さんを少し手伝い、朝食を食べるため広間に行くと、何やら智彗様と瑞凪様が従者たちと真剣な表情で話し合っているのが見えた。


 いくつか円卓のある中で、立ったまま少し遠目に窺っていると、今日も小さな智彗様がちょこちょこと私の元にやって来て、椅子に座るよう促した。



「ええと、何かあったの?智彗様。」


「あ、っと、瀬里には話しておくべきですよね···」



 「気は進みませんが」と続けるも、智彗様が真剣な顔で私に向き合った。



「実は今朝、他国から文が届きまして、」



 智彗様が手に持っていた細い蛇腹折になった手紙のようなものを広げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る