第5話

ふと皇帝くんを見ると、目を潤ませ、必死に私の顔を見上げてくる。


 可愛さを武器にする皇帝くんに、"靡かない靡かない"と自分に暗示をかけながらも、どうしても眉尻をへにょッと下げてしまう私···。



「お、おねがいです···勇者様···。」



 私のエプロンの端を掴む皇帝くんに、私はゴクリと息を呑んだ。



「···わ、分かったわ。。私も早く帰りたいし、手伝えることは手伝うわ!」

「わーありがとう、勇者様~!!」



 食い気味にお礼を言われた。



 それにしても異世界でも派遣って···。全然笑えないな。


 双方の契約が正式に成立したところで、眼鏡のイケメンが私に言った。



「私の名は···瑞凪ミズナ···。智彗の、弟だ···。で、あなたの名は?」


「私は倉田瀬里。瀬里って気軽に呼んで!よろしくね、智彗·······様!瑞凪様!」



 し、しまった!よく考えたら彼はこの国の皇帝!つい呼び捨てしそうになってしまった。誰にでも気軽に接してしまう私の悪い癖だ!


 ···タメ口で話してしまってる件はもう目を瞑ってもらおう。今さら敬語に切り替えにくいし。



「瀬里······素敵な名ですね。」



 皇帝くん改め智彗様が頬を染め、私に微笑みかけた。


 キラキラとした彗の瞳で、皇帝なのに威厳のある雰囲気は一切ない。まあ子供の姿だからかもしれないけど。


  "皇帝"というくらいだから、きっと4、50代くらいのオジサンなのだろう。でも瑞凪様はかなり若くみえる。凄く年の離れた兄弟とか、腹違いの兄弟なのかもしれない。



 智彗様の服が左肩からずり落ち、智彗様がくしゃみをした。



 ····美少年の皇帝···可愛いな···。


 突然異世界に派遣されておきながら、私の心はぽわんと温かくなった。

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