第4話

「は、派遣??」


「あなたの首にかかっている勾玉、それが証拠です♪」


「あ、あなたの首にも勾玉がついてる!」



 私が開いた中国古書の中に入っていた勾玉が、いつの間にか私の首にネックレスのようにかかっている。


 私の首にかかっている透明な勾玉は、上が太く下が細くなっているが、皇帝くんの勾玉は逆さまの形になっている。



 ニコリと可愛く微笑む皇帝くんが、自分の首にかかる勾玉を私に見せて言った。



「私は"派遣術の書"に従いあなたをこの世界に派遣しました。ですが派遣術には担保が必要でして···、」


「は?担保??」


「はい、つまり、私の"身体の一部"を担保にあなたを派遣したのです。腕を片方失くすか、足を片方失くすか···そう覚悟していたのですが、まさか背丈を削られるとは。」



 背丈というか、年齢を削られたのでは?



「この勾玉は私である派遣主とあなた、派遣者の契約の証です。透明な勾玉は、私とあなたそれぞれの心に伴い、徐々に色づいていきます。」


「···心?」


「つまり、私の心が満たされれば私の勾玉が、あなたの心が満たされればあなたの勾玉が全て色づきます。」



 眼鏡のイケメンが、私に一冊の本を開いて見せてきた。他の簡易的な和装本と違い、重厚なハードカバーで、金縁のついた真っ赤な表紙だ。



「これ···勾玉···。」



 眼鏡が、本に描かれている勾玉の挿絵を指差す。周りの文字は、中国古書に書かれていた難解な文字と同じようだが、勾玉の絵だけは理解できる。


 下から徐々に色づいていく、ということだろう。



「あなたの心が満たされれば私は元の背丈に戻り、私の心が満たされればあなたは元の世界に帰ることができます。」


 担保ってそういうことか···。要は私の心が満たされない限り、皇帝くんは小さいままということだ。


 でも心が満たされるって、私の心はいつも程々に満たされてる気がするけど····


 私は立ち上がり、ぐるりと辺りを見渡した。


 本がそこらじゅうにところ狭しと積まれており、私の整頓欲がウズウズとしている。


 ···確かに、今の私は満たされてないかも。


 じゃあ皇帝くんの心はどうなの??私、早く帰りたいんですけど。



「ところで契約って、何の契約??」



 もう一度皇帝くんの方を見ると、彼はまた俯いて、恥ずかしそうに答えた。



「え、ええと···じ、実は···」


「·····?」


「あ、あなたに···」


「うん?」


「こ、この幌天安を、救って頂きたいのです!!」


「え?····救う??」



 私は自分を指差し、私が?というように首を傾げた。



「は、はいっ。じ、実は、今この幌天安は、財政難に陥っているのです。」


「ざ、財政難?!」


「はい···お恥ずかしい話なのですが···。」


「救うって、それはつまり、勇者、みたいな??」



 財政難とか経済の話をされても分からない私は、とりあえずファンタジーっぽい単語を上げてみる。



「そ、そうです!!私は、財政難を乗り越えるべく、勇者を派遣したのです!!」


「ムリムリ、私、ただの図書館司書だし。」


「え···?と、としょかんししょ??」


「そう、つまり本を整理したり、本の在りかを案内したりする人のことよ。そんな財政難だの言われても、私はどうすることもできない、ただの平民なのよ!」



 ···言ってから後悔した。私は彼らに、図書館司書=平民という概念を植え付けてしまったかもしれない···。



「···やはり、平民···。」


 眼鏡のイケメンが静かに口を開いた。さっきから言葉数が少ないが、彼は寡黙タイプのイケメンなのだろうか。

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