1.召還ではなく、派遣です
第3話
光が収まり、目を開くと、私はそのまま暗い書庫に座り込んでいた。
代わり映えのしない風景に、一瞬胸を撫で下ろすも、本棚の素材がなにやら違うことに気が付いた。
···地下の本棚って、木でできてたっけ?
風通しの悪い地下の書架には、木の素材の棚は置かれない。カビが生えやすいからだ。
木目調の棚に近づくと、そもそも配架方法がおかしい。背表紙を向け縦に並べられているのではなく、無造作に積まれている。
しかも本が私の知っているハードカバータイプの製本ではなく、和装本という、手で用紙を縫い合わせた簡易的な製本だ。
「え···?棚の活用性を無視した、このめちゃくちゃな置き方は何?!」
しかもよく見れば、自分の座り込んでいる床も木目調で、和装本がそこらじゅうに積まれている。
「わ~!成功した!!かもしれない~。」
「でも、兄さん····小さい···。」
「!」
後ろから聞こえた甲高い声と低い声に、びくりと身体を強張らせると、私はそっと後ろを振り返った。
するとそこには、今にも服が脱げそうな小さな女の子と、その隣には眼鏡をかけたイケメンが立っていた。
「え、ええっー?!?あ、あなたたち···な、何でそんな格好してるの?!」
2人は着物のような服を着ているが、下は袴ではなく、ズボンのようなものを履いている。
女の子は、ハーフアップのような長い銀髪に、フワフワの毛皮がついたグレーのマント、襟と帯は赤色の黒い着物を着ているが、かなり大きいようで、とても着ているとは言い難い。
眼鏡のイケメンは、長い黒髪を後ろで一つに結び、細い銀縁の眼鏡をしている。白い羽織に、黒い襟と帯のえんじ色の着物を着ていた。大変よく似合っている。
日本史じゃなくて、中国史に出てくるような着物だ。
私が座り込んだまま目を丸くしていると、小さな女の子が少し頬を赤くして言った。
「えっと···初めまして。こんにちは~。」
モジモジと俯いて恥ずかしそうに挨拶をする女の子が可愛すぎて、私は立ち上がると女の子の前まで行き、目線を合わせてしゃがむ。
「初めまして!こんにちは!···あなたたちは、誰なの??ここって、図書館···だよね??」
「ええと、まず誰かという質問ですが、私はこの
「···え?····皇帝??」
「それと、ここはあなたが言った"としょかん"ではありません。ここは宮廷内の書庫になります。」
「······」
皇帝??宮廷??
皇帝ってその国で一番偉い人のことだよね?というか、女の子じゃなくて男の子ってこと?宮廷ってその国のお城のことだよね?
困惑する私を、眼鏡のイケメンが見下ろしボソリと呟いた。
「····あなたのその格好···、あなたは、平民、なのか?」
「え?へ、平民??」
言われて自分の格好を見下ろすと、いつもの図書館の仕事着だ。茶色の髪は後ろで簡単に束ね、ストライプのシャツにジーンズ、そして紺色のエプロンを着けている。
まだ農民って言われないだけマシだ。
でも"皇帝"、"宮廷"、"平民"の単語でなんとなく理解できたかもしれない。うちの大学図書館でも少し前からライトノベルを取り扱うようになってきたが、恐らくこれが流行りの、
「異世界召還ってやつ────?」
「召還ではなく派遣です。」
食い気味にそう突っ込んできた小さな皇帝くん。
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