第19話

こうしてまた不死原君のペースに呑まれる私。



「今度雀荘行きません?あ、うちにも雀卓ジャンたくありますけど。」



これは藪蛇やぶへびなのか、それとも幸運の女神が微笑んだのか。




「じゃーねー、梨添さん。」


「お礼をいいなさいお礼を。」



顔を見ずに軽く手を振る桐生君。彼は最後まで私にダメ出しさせたいらしい。さっき褒めてくれた"グッとくる"はどこに消えたのか。



「ありがとうございました、りいほさん。」


「っ、ちょっ」



桐生君よりダメ出しが必要なのは不死原君の方だった。


ピアノの先生と生徒という関係は、職場では内緒ということになっている。あまり親密さを出されては、色々な人に目をつけかねられない。



それでも彼は距離を詰めてくる。



『クリスマスイブ、うちで二人麻雀ににんマージャンなんてのもありですね。』



桐生君が先にパーテーションから出るのを見計らって、至近距離で囁いてきた彼。



唇の端を少しだけ舐めて、切れ長の目がゆっくりとしなる。



いい。そうやって背伸びした21歳の仄かな色気もいい。あるいは困る。


おばちゃん単細胞だから勘違いするし、勘違いと分かっていながらハマる恋が一番怖いのだよ。




何にせよ、万事休す、だ。

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