第15話

「―――SNSの活用を取り入れており、固定観念にとらわれない柔軟な発想力に強く興味を抱いたため、貴社を志望いたしました。」


「話し言葉の時はなるべく"貴社"じゃなく"御社"を使ってね。」


「、御社を志望いたしました。」



さすが、コミュ力孝雄たかおの桐生孝雄。


まだ3年生で、ここまでしっかり人の首もとを見て話せるのはさすがだと思う。


志望動機も初めてにしては悪くない。中身がないっちゃないけど。そこはまたこれから練っていけばいい。




桐生君はすっごいイケメンというわけではないが、フットワークの軽さとコミュ力の高さから友達が多いようだ。



ジャージ生地のジャケットにチノパンを履いて、小指にはピンキーリングなんかしちゃって。曖昧なラフの押し売りか。あれじゃ彼女持ちかどうかも分からない。



彼の場合、本当は彼女いるのにわざと薬指以外にペアリングして、都合のいい時だけ"彼女はいません"アピールをしている可能性がある。桐生孝雄の小技こわざもなかなかあなどれない。





と、私が桐生君の小指を見ている時だった。


左の方で、軽快に動く何かが左目の切れ端に見えた。


不死原君が、膝の上でピアノを弾いている。


片手で、彼の膝を跳ねるように浮かせては弾いている。



ちょっと!指の動きが軽やかすぎなんだけど…!どれだけ人差し指が高みへ?


隣では真面目に桐生君が模擬面接をしているのに何してるの?!



今は桐生君の言葉に集中しなきゃなのに、嫌でも彼の指に目がいってしまう。


ああ、その動きだけでよく分かる、何を弾いているのか分かってしまった。



『赤鼻のトナカイ』、だ。

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