第36話

「東さん?あなたがうちらを疑ったの?」


「え?あ、あたしは何も……」

 

「自分の生薬がなくなったからって、友達に助けを求めにいくなんて小学生?」


「…………」



先生や実習助手さんに、生薬が無くなったなんて言いにくいもんね。漢方って少量でも高額だし。



私が「大丈夫だって。」と乙菱に一言伝えて、少し冷めた葛根湯を飲もうとした。




でもそこで、斜め向かい側の亘君がなぜか手を伸ばしてきたのだ。



「俺が飲むよ。それ、ちょうだい。」



私の手にする紙コップを、くれくれと手で合図をしてくる。黒髪ウェーブに下がる目尻がけっこう可愛いかもしんない。



「えっと、亘君、だっけ?いいよ。私が引き起こした厄介事なんだし、」


「わぁお。初めて矛兎さんと話せたわ。」


「私のこと、知ってくれてるの?(そりゃ知ってるよね。)」


「もちろん。うちの学部を誇る才女じゃん。」


「え、百奈うれしい〜(もっと言ってくれていいよ?)」



台に両肘をついて向けてくる笑顔も、けっこう可愛かったりする。私もこれ見よがしに首を傾けて笑顔で返す。

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