第33話

葛根湯作りに専念していると、違う台にいた乙菱が、後ろからこっそりと話しかけてきた。



「ごめん百奈。どうしよう。あたしの桂皮がなくって、」


「え?」


「……余ってない?」

 

「……最初からなかったの?」


「ううん、来た時はあったはずなのに。亘君と話してる間にどっかいっちゃって。」



乙菱のいた台の方を見れば、そこには亘君の背中と、向かい側でヒソヒソ話をしている女の子2人を見つけてしまった。



大学生にもなって稚拙な嫌がらせだなんて、薬学の神と葛根湯の開発者が聞いて呆れるって。



彼女たちの様子を見に行こうと自分の台から離れれば、鹿助君が「は?」と不思議そうな声を出した。



結んだロングのゆるパーマを揺らす2人組の横から

、可愛くずいっと上目遣いで挑む。



「ねぇえ〜、乙菱の細くて長い桂皮がなくなっちゃったんだけどぉ。2人ともどこにあるか知らなぁい〜?」

   


目をしぱしぱさせて、ビューラーいらずの天然まつ毛を見せつけてやる。



彼女たちは磯村先生のゼミ生だ。最近乙菱に、すれ違いざまに悪態を吐いている彼女たち。



彼女たちはすでにアルコールランプで生薬を熱湯抽出中。正直、証拠なんてどこにもないけれど、私の勘は疑うことを知らない。

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