第5話

「あ、ぅえっ、って盾狼たてがみ君っ……?」

「た、盾狼くんっ?!……薬学の?」


 

「おはよう。みんな。」



その盾狼君が、ほんの少し上げた口角だけで柔らかく笑った。



よく見ればグレーのスーツ姿で、さっき私の後ろで窓越しに目が合ったお兄さんだ。



グレージュの柔らかそうな髪が、首を傾げて挨拶をする盾狼君から数秒遅れて揺れる。



アンニュイそうなタイムラグ。電車の揺れがいい感じに盾狼君の空気を惹き立てている。 



「お、おはようございますっ」



真智美ちゃんが、顔をこわばらせて挨拶をすれば。



まだ私の頭に手を乗せる盾狼君が、私を覗いて言った。


  

「百奈は俺におはよって、言ってくんないの?」

     


初めましての、このタイミングでこの距離感。



もしかして、助けてくれてる?私の敏感センサーが反応して、盾狼君の演技に合わせることに決めた。


 

「えへへ、おはよ。」

「おはよ、百奈。」

「……今日は、スーツなの?」

「今日授業の帰りに、製薬会社に呼ばれててさ。」



さり気に、ストールから飛び出る私の髪をいじり始める盾狼君。この私を前にしても動じないその根性、やるじゃん。



あまりにも自然に触れてくるから、こっちのが動揺しそうになる。


  

でも同じ薬学部なのに名前知らなくてごめんね〜?私3年生からの編入生だから。

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