第23話

保育士の土田恵梨香が面接を終えて、いったん帰った後に、また電話があった。


「社長、そこに麗奈さんもいらっしゃいますか?」

「うん、おるよ、代わるか?」と言ってハンズフリーにした心平だった。


「いいえ、実は面接時に話しそびれてしまった事がありまして、麗奈さんは有名なインフルエンサーなので、私が以前の会社を退職した理由が露呈してしまうと思いましたので、お手数ですがもう一度、お時間を作って頂き面接をして頂けたらと思うのですが、いかがでしょうか?」

「うん、そりゃあ構わんよ。ただ、どなたにも秘密言うのがある思うけぇ、わざわざ公表をせんでもええと思うが」

「前の会社を退職した理由を麗奈さんから訊かれたのに、濁してしまったのが自分でも許せなかったので、正直にお話したうえで、もう一度採用か不採用のご判断をしていただきたいと思ったので」

「じゃったら、お待ちしとるが、麗奈もいた方がええか?」

「はい、できれば、ご同席していただけると、ありがたいです」

「では二人で、お待ちしとる」


  ※


「五日後から業務に入ってしまうので、その日にお時間を取って頂くのは申し訳ないのでお願い致します」

「はい、お話して、つかぁさい」

「ご存じのように、私の前職は放課後等デイサービスで保育士でした、そこで既婚男性の管理者と男女の仲になっていきました、ある日の仕事終わりに管理者と私が二人で食事をした後にいつものようにラブホに行った夜のことでした」


その後の彼女の言葉が止まってしまった。


「すみません、続けます、かなり二人は興奮していて愛し合い激しいセックスになった瞬間のその時でした、『パシャッ! パシャッ! パシャッ!』という音が、ベッドに置いた私のスマホから音が鳴り、それと共に画面が光り、そして、『は~い! 今日、ラブホに来てからの二人が交わっとる所は全て証拠として撮ったけぇ! 全部録画したけぇのぉ!』と男の低く野太い声がしたのです、管理者が慌てて私から降りて、スマホを覗き込むと画面は黒くなりました、その後にまた低く野太い男の声で、『二人が勤務しとる会社は全国にある放課後等デイサービスだからさ! 管理者のアンタの奥さんは家で三人の子供を面倒みとって、仕事場では知的障がいや発達障がいの子供たちを偉そうに指導する管理者とお姉さんは保育士じゃったよね? そがいな偉い先生方が不倫じゃけぇな? 楽しみにしてろよな、笑い者にしちゃるけぇさ!』と声が聞こえたのです」


「お前は誰だ!?」と管理者が怒鳴った時に、『ワシか? 管理者のアンタに散々、苛め抜かれてパワハラされて辞めた人間じゃ、何人もおるけぇ分からんじゃろうね? こっちはやられた方じゃけぇ、忘れんのじゃよ、やった方は、直ぐに忘れるじゃろうけどのぉ?』と男が嬉しそうに言いました」


その時に土田は声を上げて号泣し暫く、話が中断した。


「すみません、そしてその男は『お姉さんも管理者のアンタも、この上のう気持ちえかったよね? その二人の姿を知的障がいと発達障がいの子供たちと、その保護者と、ほいで全国のフランチャイズの経営者たちと、最後に管理者、アンタの奥さんにも送っちゃるけぇ!』と男が言ったのです」


「そんな事があったのですか」と麗奈は驚いていた。


「次の日、会社のホームページが改ざんされて、二人のセックス動画が掲載されていた事で、私たちは解雇され、更に管理者の奥さんから慰謝料を請求されたのです。面接時に私は社長と麗奈さんに嘘をついていました、本当に申し訳ございませんでした!」と土田は涙ながらに語った、そして心平が訊いた。


「正直に話してもろうてありがとう、慰謝料は幾ら請求されとるんか?」

「二百万円です」

「では、うちの店で一所懸命に勤務してもろうて、そのお金を先にワシの預金からお貸しすけぇ、一括で返済してしもうてつかぁさい、うちにゃあ、分割にして返済して頂けりゃあ、ええけぇ、如何かの?」

「えっ、そんなことまでして頂いては、申し訳ありませんから」

「返す当ては、あるんか?」

「いいえ、ありません、母の病院代で、今までの預金を使い果たしてしまっているので、こちらで七時間のパートをさせていただいて、その後に夜のお店で勤務しようと思っています」

「ダブルワークでは体がもたんけぇ、辞めた方がええけぇ、甘えてつかぁさい、お母さまのお具合も悪いと聞いとるし、アパートに一緒にお住まいのぉ?」

「はい」

「うちの店の寮もあるじゃけぇ、お母さまと一緒に引っ越して、うちの店で、ちいと長い時間勤務して頂いて、行く末はもっと従業員を入れるけぇ、そうしたら土田さんにゃあ、うちの店の保育所の所長になって頂いて正社員で雇用させて頂くけぇ、それまで少しの間、待っていただけたらと思うとるんじゃが、ほいでまた何か困ったことがあったら、いつでもご相談に乗るけぇ、いかがじゃろうか?」

「それで本当によろしいのですか?」

「うん、気にしなさんな!」

「嘘を吐いていても、麗奈さんは有名なインフルエンサーですし、私の名前で検索すれば、あの事実を目のあたりにしてしまいます、いつかは社長の耳に入ってしまうかと思ったので、こんな私ですが不採用ではないのですか?」

「なんで不採用にするんか、正直にお話しして下さって反省しとる人じゃけぇ、同じ間違いは起こさんじゃろ? それに人生なごう生きとりゃ、色々あるんじゃって、ワシはまだ若けぇが、それでも色々あって反省の途中じゃけぇ、将来ええ夢が見られるように一緒に頑張って幸せになろうよ?」

「はい、一所懸命に頑張ります! 社長! 麗奈さん、一緒に宜しくお願い致します!」

「じゃぁ、今から焼肉食って腹ごしらえでもしようか?」と、心平は二人を店の車に乗せて向かった。


その後の三人は清々しい顔で歓談していた。心平は脛に傷を持つ人の方が持ってない人よりも人間的には頑張れると思っていた。土田をアパートに送って行った後に、麗奈が言った。


「社長は女性にすごく優しいんですね? 土田さんと言い、美浦孝子さんと言い、お二人は美人さんだからですか?」

「そがいな事ないよ、美人さで言うたら、麗奈の方が数段上じゃないんじゃろうか?」

「本当にそう思っているんですか?」と麗奈は嬉しそうに言った、

「あぁ、ワシが今まで、出会うた女性の中では一番じゃ思うとるよ、それに土田さんのことでは一言も口出しをせんかったなぁ、偉かったしね」

「社長、それはないですよ……」と言って麗奈はプッと膨れた、心平は麗奈を家に送った。

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