第13話

ウエイターがデザート菓子を持ってきた。「こちらはオーナーシェフからのサービスです」と言ったので、心平は礼を言った。


「ありがとの」


ウエイターはデザートを置いて帰って行くと、麗奈が言った。


「私が来ると、いつもこうやってサービスされるんです」


「凄い影響力じゃのぉ?」


「これも私の力ではなくSNSの力ですよ。評判が怖いんですよ」


「なるほど、今の時代はそうなんじゃのぉ。ワシャ、そがいなのに疎いけぇさ」


麗奈は目を真っ赤にして訴えるように言った。


「だから私は社長をこの武器を使って幸せにしたいんです。そして私も社長と一緒に幸せになりたいんです。私を社長のお嫁さんとして立候補させてください。私は社長のためだったら命を落としてもいいですから!」


「ワシみたいな男ではレイナにゃあ、もったいないよ。その気持ちはありがとう受け取るけど、もっとワシのことを知ってからでも、ええんじゃないじゃろうか?」


「水島さんが、たとえ、ふざけて言ったとしても、女性の私がいる前であのようなことをされたら私は我慢ができないんです。だから私を一人の女性として見てください! お願いします!」


「うん、分かったよ、ありがとの、ところで話を変えるけど、ええかな?」


「はい、なんでしょう?」


「時給の話なんじゃけど、2020年はコロナ禍の影響が大きかったけぇ、広島の最低賃金が901円から902円じゃったんだ。2021年は28円の引き上げ目安が提示され、全国平均が930円に上昇したんじゃ」


「そんな時給なんて、いくらでもいいですから!」


「そりゃあ、つまらんだめだ、そがいな事こそ、ちゃんとせにゃあ、久しき仲にも礼儀ありじゃけぇな、10月より緊急事態宣言が明けた事で、少しずつ経済活動の再開も進んで、2022年の予想としても10月から最低賃金が上がる可能性が高そうなんじゃ。2022年は物価高の影響から、過去最大の31円の引き上げ予定だそうじゃけぇ、レイナの時給は1000円でええかな?」


「でしたら、最低賃金で結構です、そして私は大学を卒業したら社長のお店で社員にさせてもらって、お嫁さんにもさせてもらいますから、その時には月給制にしてください。そうなるように私も努力して売上も上げますが、純利益も上げて見せますから」


「うん、分かったよ、ありがとの、お嫁さんにするこたぁ、それまでレイナがその気持ちをもってくれんさっとったらの話しで今、決めんでもええ思うけぇさ」


心平は、中卒だった事で麗奈は自分にはもったいないと思っていた。コースが全て終了すると、オーナーシェフがテーブルに挨拶に来た。


「はい、ご馳走様じゃった。大変にうもういただいた」


オーナーシェフは心平の言葉を無視して言った。「中山様はいかがでしたでしょうか?」


「はい、いつも通りで美味しかったです」


オーナーシェフは心平には一礼もせずに言った。「中山様、ありがとうございます、ごゆっくりお過ごしくださいませ」


オーナーシェフのこの言葉と態度は麗奈の気に触った。今日は心平が主賓でそれなのに彼は、心平を差し置いて自分にばかり気を使っていたからだ。ただこのことはSNSには記載せずに今日、行ったことも記載しなかった。


つまり褒めも貶しもしないというスタンスだった。何故なら麗奈は心平の店のアルバイトになるので、もう他店の宣伝をするのを控えようと思っていた。


「もうランチの閉店時間じゃけぇ我々も帰ろう」と心平が言うと、麗奈は素直に返事をした。


「はい、今日はごちそうさまでした」


彼女を自宅に送り、心平は帰宅して祖父と両親に話をした。父親は「ワレの店じゃけぇ好きなようにしんさい」と言った。


心平はいよいよ彼が開発した心平饅頭の一品勝負をすると決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る