第12話

ドリンクと料理が運ばれてきて食べながら話をしていると、先ほどの美紀子が心平のテーブルに来た。


「お連れさん、すみません、心平くん、実は私、夫と別れたの」と、美紀子が言った。


「そうじゃったんだ、あの優秀でイケメンの彼と?」


「うん」


「そっか」


「で、結婚生活にピリオドを打って」


「獅子屋さんの仕事をするんじゃのぉ? そうだ、ミキティーも広島大学を卒業したんだよな?」


「うん、そうよ、それが?」


「こちらは今日からうちのアルバイトで採用した中山麗奈さんも今、広島大学の三年生なんじゃ。ほいで、こちらはあの有名な獅子屋の一人娘の水島美紀子さんで、ワシの中学の同級生じゃ」


麗奈はスッと立ち上がり、一旦、礼をしてから丁寧に挨拶をした。


「情報科学部の中山麗奈です。どうぞ、よろしくお願いいたします」


「麗奈さんね、心平くんはナイスガイだから惚れないでよ、私、夫と別れたから、心平くんの奥さんになるように立候補するから」と、あっけらかんと言った美紀子だった。


「ミキティー、ワレはそうやって中学の時からワシをバカにしとって、それで大学を卒業すると彼と駆け落ちして東京に住んで、すぐに結婚したんじゃ。こうやって、いつもワシをからかって笑いよる悪い性格なんじゃ、麗奈さんだってわかるじゃろ? うちの店の前にこれ見よがしで店を出す会社の娘なんじゃけぇ」と、笑いながら言った心平だった、麗奈は何も言わずに下を向いていた。


「心平くん、ここでは話ができないから、電話してもいいかな?」


「うん、ええよ」


「電話番号は変わってないかな?」


「うん、変わっとらん」


「じゃぁ、またね! おつれさん、失礼しました」


「あぁ」


「いいえ、どういたしまして」


麗奈は悔しかった、そして美紀子たち一行は食事が終わり三々五々帰って行った。


  ※


「悪かったね」


「仕方ないですよ、社長、でも私、あの美紀子さんには負けないですから!」と、麗奈は真剣な顔で言った。


「何を負けんの?」と、素っ頓狂な声で心平は訊いた。


「社長のお嫁さんのことですよ」


「何をバカなことを言いよるんよ、ミキティは、そがいな女じゃないよ、ワシをからかっているだけじゃし、麗奈さんはワシのような貧乏人じゃのうて、もっと立派な男性とご縁をした方がええけぇのぉ」


「それに、その内に私も社長から『レイナ』って呼び捨てしてもらえるようにしますから」と、麗奈は悔しそうな顔で言った。


「そがいな事じゃったら、麗奈さんがそうして欲しいなら、今からでもしちゃるけど? それに、ミキティーは麗奈さんが美人で可愛いけぇ妬いとって、ああ言うたんじゃ思うよ」


「でしたら麗奈って呼び捨てにしてください!」


「うん、分かったよ、レイナ!」


「はい、社長!」と、麗奈は満面の笑みを浮かべて返事をした。

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