第11話
「麗奈さんはこのゴム手袋を使うて、白魚のような綺麗な手が荒れてしまうけぇさ」と、心平はお世辞を言って新品の手袋の袋を開けながら言った。
「社長、それって、イヤミですか?」と、麗奈はクスッと笑って言った。
「コンロの上のフードは、どがぁしても汚れてしまうけぇ、毎週、休みの日にゃあ、こうやって拭き掃除をするんじゃ」
「いつもピカピカですものね?」
「うちの店は自慢じゃないけど、保健所から表彰をされとるぐらいなんじゃ、じゃけぇ、それを守り続けにゃあね、じいさんや親父の顔に泥は塗れんけぇさ」
「社長は、
「うん、尊敬もしとるし、ぶち好きなんよ」
「いいな、私は
「そうなんじゃのぉ」と、言って、心平はそれ以上触れなかった。店内外まで拭き掃除をしてその後、床の清掃をして終了した。
「お疲れ様。麗奈さん、疲れたんじゃない?」と、心平は麗奈をねぎらった。
「いいえ、全然、大丈夫です!」
「そりゃあそうと、何が食べたいかな?」
「社長が決めてください」
「だって、麗奈さんは有名なインフルエンサーじゃけぇ、いっぱいええお店を知っとるじゃろ?じゃけぇ案内してよ」
「何で、私がインフルエンサーだと、知っているんですか?」
「今朝、麗奈さんの名前で検索したら出てくるわ、出てくるわ、じゃったけぇさ」と、言って笑った心平。
「では、わかりました。イタリアンにでも行きますか? 私の一押しのお店で、ちょっと遠いんですけど」
「うん、じゃぁ、店の車でええかな?」と、言って二人で店を出た、1992年製の軽ワゴン車を近所の駐車場まで行って彼女を乗せ途中で麗奈が店に電話した。
満席とのことだったが、中山麗奈と言っただけで、すぐに席を用意してくれるとのことだった。それは、彼女の名前は超有名なインフルエンサーだからだ。
「社長、千五百円と二千五百円と三千五百円のコースがありますが、どれにしますか?」
「そりゃ、三千五百円じゃろ?」
「三千五百円を二人でお願いします」と、麗奈が言い電話を切った。
「やっぱ、麗奈さんは凄いよね?」と、心平は感心した。
「そんなことないですよ。それよりも一番高いコースですみません」
「そがいに、心配せんでも」と、苦笑した心平、そして途中で舗装されていない道路を通ると、車からギー、ギー、キュルキュルキュル、カラカラカラと変な音が鳴り出した。
「社長、この車は、大丈夫なんですか?」と、心配になった麗奈がきいた。
「この車はボロじゃけえ、いつもこの音が鳴るんじゃ。心配せんでもその内に直るけぇ」
店に着いて入ると、ウエイターがテーブルに案内した、隣のテーブルを見ると、三十代の主婦グループであろうか、十名ほどの集団だった。その中の一人が立ち上がって心平に挨拶をした。
「心平くん、お久しぶり!」と、満面の笑顔で言った女性は、中学のクラスメイトの美紀子だった。
「あぁ、ミキティー。げに久しぶりじゃのぉ。こっちに帰って来たんじゃ?」
「うん。先日、同窓会があったでしょ? 用事があったから行けなかったの」
「そっか、ちいと待っとって、ツレにも悪いけぇ、注文だけしてしまうけぇさ」
「ごめんなさい。じゃぁ、また後で」
ウエイターがテーブルに来たので麗奈のドリンクを訊いた心平。
「好きなものを飲んで」
「社長と一緒で」と、言ったので心平が。
「今日は、麗奈さんの就職祝いなんじゃけぇ、好きなものにしんさい」
「では、お言葉に甘えて、グラスワインの白でお願いします」
「ワシャ、下戸じゃけぇ、オレンジジュースをお願いします」
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