第7話

心平は仕事を終えて、一人で祖母が眠る墓に行った。暗い中だったので周りを軽く掃除をして合掌して声を詰まらせ涙を拭いて言う。


「婆ちゃんの顔は見たことないけど、兄貴たちが店を継がんかったけぇ、ワシが継いだけど、技術と商才の無さでワシの代で店が暇になってしもうた」


心平は話を続けた。


「目の前の獅子屋にゃあ、毎日のように客が行列をなしよるのにね、げにごめんなさい。

でもね、祖父じいちゃんや親父にゃあ、まだ相談しとらんのじゃけど、店の今まで受け継がれてきた菓子を全部止めようと思っておるんじゃ」と鼻水をすすりながらゆっくりと話した。


「そして今日、完成したこの心平まんじゅう一品で勝負しよう思うとるんじゃ、じゃけぇ祖母ばあちゃんはワシの応援をお願いします」と、そんな願いを墓前で手を合わせ、新作の心平まんじゅうを供えた。


 ※

心平たち同級生は30歳という節目の年齢を迎えたので中学の同窓会が2022年8月20日土曜日に開催された。卒業してからそれなりの年月が流れて初めての同窓会だった。LINEでの呼び掛けがオモな連絡手段だった。


それでも20人ほどの同級生が集まって昼間から河原でバーベキューとなった。心平は直前まで行くかどうか迷っていた。理由はコロナ禍ということもあったし、空白の時間を埋める会話が煩わしくて面倒だった。


何よりも自分だけが中卒で専門学校に通ったからだ。しかし心平は新商品の開発も終わり、心は幾分晴れていたので、同級生たちは高校に進み、大学進学して就職したその後の人生と外見的な変遷も見てみたいという矛盾の感情もあった。


そして心平は後者を思い参加する事にした。同窓会での話題は仕事、恋人、結婚した人は妻や子供、両親の病気、趣味、スポーツ等々と同じ年齢なので考えていることは一緒のようだった。


ただまだ皆、若かったので何も心配なく人生を謳歌していた、心平以外は皆、彼女や妻がいた。あっという間の一次会が終了した。そして、酒を飲んでなかった同級生の車に分乗してカラオケという定石通りの流れの二次会へと進んだ。


心平は一次会で帰る予定だったが何となく二次会まで着いて行った。彼は音痴だったので、しばらく皆の歌声を聴いていて、その後トイレに一人で行った。行く途中で男女の怒鳴り声が聞こえた、安普請のカラオケルームだったので、部屋の中で大きな声で喧嘩している声が廊下まで流れてきていた。


それも男が女に激怒している声が聞こえていて、心平は見てはいけないとは思ったがドアの窓から中を覗くと、あの中山麗奈が男に襟首をつかまれて殴られそうになっていたので、心平はドアを開けて部屋に入った。


「ワレ、ナニをするんじゃ!」と、怒鳴り声をあげていた男が叫び、心平は黙ってその男をジッとにらんだ。


「ワレは関係ないだろ!」とまた叫ぶ。


心平も叫ぶ。


「この人はワシの大切なお客さんなんじゃ!」


それでも男が叫ぶ。


「ワレには本当に関係ないだろ!」


心平も叫ぶ。


「本当に関係、大アリなんじゃ!」


その途端、今度はその男が心平に殴りかかってきたので、彼は一本背負いで投げ飛ばした、男は起き上がって叫ぶ。


「やったな!」と、また殴りかかってきたところを心平はクロスカウンターで一発殴る。男は頬を抑えて痛がりながら言う。


「イテーッ!」


また心平に殴りかかって来たので、今度はボディーブローを一発思いっきり入れると、彼は床に寝そべって腹を抑えた。


その間に心平は麗奈の手を握り、カラオケボックスを出て大通りまで走って逃げた。

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