第6話

毎日、毎日、心平は店の菓子を作りながらも、生地のレシピ作りに勤しんだ。2~3作目として。ベーキングパウダーと重曹を変えて作ったが、武平まんじゅうとは違った味に仕上がった。


(材料)

黒糖  50g

湯   120㏄

薄力粉 120g

ベーキングパウダー 5gまたは重曹 2.5g

塩    1g

米油   30㏄


6作目~7作目として、ベーキングパウダーと重曹を変えて作ったが、武平まんじゅうとは

違った味に仕上がった。 


(材料)

薄力粉 100g

ベーキングパウダー 6g または 重曹3g

豆乳 100㏄

黒糖 40g

全卵(Mサイズ)1個

米油 大匙2杯

         


11作目~12作目として。ベーキングパウダーと重曹を変えて作ったが、武平まんじゅうとは違った味に仕上がった。


(材料)

薄力粉 75g

強力粉 25g

黒糖 40g

ベーキングパウダー 5gまたは 重曹 2.5g

豆乳 140㏄

全卵(M)1個

醤油 小さじ 半杯、

米油 大さじ 1杯


20作目~21作目として。ベーキングパウダーと重曹を変えて作ったが、武平まんじゅうとは違った味に仕上がった。もっとシンプルだったと反省した。


(材料)

黒砂糖 50g

卵黄 1個分

米油 10㏄

豆乳 60㏄、

薄力粉 120g

ベーキングパウダー 4gまたは、重曹 2g


  ※


これまでは粉を強力粉や薄力粉の他に中力粉に変えたり、ベーキングパウダーと重曹を変えて作ったりしたが、武平まんじゅうとは違った味や食感に仕上がっていた。


しかし108回目の試作は奇しくも2022年8月6日の祖母の祥月命日に武平まんじゅうに近い味と触感に仕上がったのが、このレシピだった。


(材料)

強力粉または薄力粉 100g

黒糖 50g

重曹 2.4g

水  120㏄


たったこれだけの食材が黄金比だった。心平まんじゅうの生地で皮のショッカンがやっと見つかった。やはり体に良くて美味しいものはシンプルイズベストだと心平は思った。

「今までワシは何をやっていたんだろう?」と、彼は自身の舌と技術の無さを憂いた。


そしてあの武平まんじゅうは一個七十五円で十個買うと一個おまけのサービスが貰えた。

この商売が素晴らしいと心平は心底思った。このレシピならどんな高価な材料を使っても

利益は出せると計算もできた。


毎日、毎日、試作品を作っては祖父と両親と心平では食べきれずに捨てていた。そして店の菓子の横に新製品として並べて販売したが、またしても一向に売れることはなかった。そこで彼は心平まんじゅうを四等分にして試食用として店頭に置いた。


 ※


あの中山様の孫娘が店の前の階段を上ろうとした時に試食用の張り紙を見て一つ、摘み食した。


「えっ、これは美味しいじゃない!」と声を上げて、そのまま店内に入った。


「いらっしゃいませ!」と、心平は孫娘の顔を見た途端に、またイヤミを言われると思っていた。


「できたのですね!とても美味しかったです!」と明るい顔で孫娘が言った。


「はい、お陰様で。お姉さんに褒めてもらえて嬉しいでがんす」と、心平は満面の笑みで答えた。


「私、広島大学の情報科学部の三年生です」と、孫娘が言った。

そして心平は言う。


「そりゃ大変じゃのぉ。今はコロナも蔓延しているので大学の講義も大変と聞いとるけぇ、頑張ってつかぁさいのぉ!」


孫娘が明るい声で言う。


「はい、私は東京生まれで高校まで東京に住んでいたので、広島弁は話せません、そして名前は、中山麗奈と言い、歳は二十一歳です。社長は?」


社長と呼ばれて恥ずかしくなっていたが、それでも心平も自己紹介する。


「ワシャ、きららざか、心平いで、雲に母に坂と書いて『きららざか』と読み、心が平と書いて『心平』じゃ。でも、修行が足らんけぇ心を平らにすることができんでおる。歳は三十歳でがんす」


孫娘は驚いた表情を浮かべて言う。


「すごい苗字とお名前ですね?」


心平は若い女性に言われたので、照れた表情を浮かべながら言う。


「そうか。生まれてからずっと同じ名前じゃけぇ、そう言うて頂けると、恥ずかしいけどのぉ」


麗奈は丁寧に頭を下げて言う。


「では、今後ともよろしくお願いします!」


心平は慌てて言う。


「ちっ、ちいと待ってつかぁさい。折角じゃけぇ、お祖母様と麗奈さんに、この新製品の心平まんじゅうを持ってつかぁさい。今、お包みするけぇ」


麗奈は驚きながら言う。


「えっ、こんなにイイのですか?」


心平も改まった顔で言う。


「はい。是非、どうぞ!お祖母様の中山様にもよろしゅう伝えてつかぁさい」


麗奈は優しい笑みを浮かべて言う。


「はい、承知いたしました、うちのおばあちゃまは、心平さんのことが大好きですから」


心平は喜びを隠せない表情で言う。


「そうか、うれしいのぉ、今日はどうもありがとの」


麗奈は今までとは違い、心平に対して尊敬の念を覚え、更には恋心さえも持って丁寧に頭を上げながら言う。


「こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いし致します」




 

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